【観劇レポート】Stephen Sondheim Theatre「& Juliet」
【ネタバレ分離】Stephen Sondheim Theatre「& Juliet」のレポートです。
もくじ
公演前情報
公演・観劇データ
項目 | データ |
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団体名 | Stephen Sondheim Theatre |
題 | & Juliet |
脚本 | David West Read |
演出 | Luke Sheppard |
音楽 | Max Martin & Friends |
場所 | Stephen Sondheim Theatre(New York) |
ネタバレしない程度の情報
観劇日時・上演時間・価格
項目 | データ |
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観劇日時 | 2024年02月16日(日) 13:00~ |
価格 | \26100 |
観た直後のtweet
"& Juliet" at Stephen Sondheim Theatre
BWは2022年初演。シェークスピアが夫人に請われてジュリエットが死なないロミジュリを書いたら?。ポップな雰囲気キレッキレのダンス名曲の数々。話はやりたい放題なのに。でもものすごく強い抑圧にあがなうテーマが最高すぎる。It’s my life!。超オススメ! pic.twitter.com/L3LT1VlBxJ— てっくぱぱ (@from_techpapa) February 16, 2025
満足度
(5/5点満点)
CoRich「観てきた」に投稿している個人的な満足度。公演登録がない場合も、同じ尺度で満足度を表現しています。
感想(ネタバレあり)
「ロミオとジュリエット」を執筆中のシェイクスピア。最後にジュリエットも自殺して終わる、とあらすじを説明するも彼の妻のアン・ハサウェイは「そのオチは気に入らないわ」と反対される。それなら…と自殺しなかった話を書き出すシェイクスピア。ジュリエットは、ロミオが生前浮気していたことを彼の葬式で知り、ノンバイナリー(男でも女でもない性別を自認している)の友達メイと乳母のアンジェリークと、何故か物語の世界に迷い込んだアン・ハサウェイと共にパリに行く。そこでフランソワと新しく恋に落ちるも、実は彼はメイとも恋に落ちていた。乳母も、フランソワの父ランスとやけぼっくいに火がついた様子。女たちが男に翻弄されて生きる事に辟易して嘆くアン・ハサウェイ。それを見かねて、ロミオを生き返らせる物語を書き出し、自らの「筆」を折り、もう物語は書けないというシェイクスピア。シェイクスピアの「筆」から逃れ、自分自身の人生を生きるようになった登場人物たち。彼らは自分達らしい生き方を手に入れることができるのか・・・と、最後の方は強引にまとめるとこんなお話。
シェイクスピアの「ロミオとジュリエット(Romeo & Juliet)」を下敷きにしているのは言うまでもないが、ロミジュリベースやりたり放題の「もしも」な物語なのに、テーマの重さと、それに反比例して全体がポップにライトにまとめられている作品。若者を狙った作品であるのはよく分かるも、それにしてもよく練られたポップさに、純粋に楽しい。開演前のプレショーの段階から、アンサンブルたちが舞台に出てきて、まさに「ロミオとジュリエット」の舞台の稽古をする準備をしているのだが、もう最初からヒップホップベースのダンスの、キレ味の鋭さに魅了されている。
バックストリート・ボーイズ、ボン・ジョビ、ブリトニー・スピアーズ、アダム・ランバート他の曲を使用した、いわゆる「ジュークボックス・ミュージカル」なのだけれど、曲の使い方が何ともオシャレ。
一幕最後、シェイクスピアの「筆」によって物語の中で生き返る事になったロミオの登場シーン。「Romeo」というネオンサイン看板と共に、舞台上方から颯爽と登場。その時に歌われるのが、ボン・ジョビの「It's My Life」。本当に生き返らせるのかよシェイクスピアさん、という強いツッコミを入れつつ、ド派手な登場が最高。「僕は生き返ったよ!」とかロミオが言ってる(うろ覚え)と、ジュリエットがすかさず「Oh,Shit!」で幕切れ。ボン・ジョビの曲をここまでカッコよく使うの最高かよ、というのと。
一幕途中、メイが自分の性、ノンバイナリーである事について悩むシーン。歌い上げるバラードが「I'm Not a Girl, Not Yet a Woman」…て、ブリトニー・スピアーズの原曲は、大人の女でもない、でも子どもでもない、青春の苦悩・・・を描いているのに、このミュージカルだと「女じゃない」って曲になっている。基本は同じ歌詞なのに、解釈が全く違う曲になっている。でも、曲の良さに裏打ちされているのもあり、「え、そう解釈する?ぷぷぷ」と思いつつも自然と物語に引き込まれてしまう不思議。
他にも、たくさんの「いい曲」が「いい使われ方」していて、もうおなかっばい。ジュークボックス・ミュージカル冬の時代、って言われている昨今だけれど、なんだこんなにいいミュージカルあるじゃん、というのにも驚き。しかし、ここまで名曲積み上げていくとお値段もそれなりじゃないの?と調べてみると、このミュージカル、これれらの曲の多くを書いた本人、音楽プロデューサー、ソングライターのマックス・マーティンがつくっている。まぁ自分の曲を並べたっていう事か。いや、それにしてもこのストーリーでこの曲を並べてくるのは凄いな。
物語のポップさと同時に、内容は明確に「女性の自立」、あるいは女性に関わらず中性・男性の「自立」を描いている。ジュリエット、メイ、アンジェリーク、アン・ハサウェイは、それぞれの人生、それぞれの恋を進んでいくのだけれど。どう頑張ったって女は男に翻弄される。もうそんな人生まっぴらだ、と言わんばかり。「ロミオとジュリエット」の世界観なのに、性に関する認識だけは現代に飛んでいて、女たちの元気さ、無謀さ、強い芯が描かれているのがたまらない。笑ってるのに泣いているっていう、演劇を観ていて一番良い場所に持って行かれる。
テーマに関しては、少し女性視点の一方的な描写という気もしないでもないし、描き方の軽薄さ・・・男も女も中性も、お互い誰かを求めるんだから、その現実をみると一面的な話になっていないか?という気がしなくもない。とはいえ、ここまで馬鹿馬鹿しい設定を展開しつつ、しっかり考えさせられるテーマに落しているのは素晴らし過ぎる。娯楽ミュージカル、特に若者がみるミュージカルとしては最高でしょ。そう思った。
舞台には最初から「& Juliet」っていうネオンサイン看板と、1幕最後で出てくる「Romeo」の看板があるが。ラスト、ロミオと和解したジュリエット。「今度やるなら、Juliet & Romeoね」的なことをう(私の方が先に名前出すわよ、という意味)。看板の並びが「Romeo & Juliet」だったのが、上下が入れ替わって「& Juliet Romeo」となる。・・・まあタイトルはいろんな意味で取れるけれど(ふつうは「そしてジュリエットは?」と取るしね)、「& Juliet」っていうタイトルにも納得。"&"を最初に持ってくるとSNS的にも検索的にも、不利な場面多い気がするけれど(しかもこの規模の作品なら、それを誰かが指摘してくれそうだけれど)、フィナーレの曲、ジャスティン・ティンバレーレイクの"Can't Stop the Feeling!"に乗せられながら、なかなかに考え抜かれたストーリーにも舌を巻いた作品だった。