<観劇レポート>feblaboプロデュース「ホテル・ミラクル7」
観た芝居の感想です。
もくじ
公演前情報
公演・観劇データ
団体名 | feblaboプロデュース |
題 | ホテル・ミラクル7 |
脚本 | 笠浦静花(やみ・あがりシアター) ハセガワアユム(MU) 目崎剛(たすいち) 本橋龍(ウンゲツィーファ) |
演出 | 池田智哉(feblabo) |
日時場所 | 2019/10/04(金)~2019/10/14(月) 新宿シアター・ミラクル(東京都) |
劇団紹介
劇団ホームページにはこんな紹介があります。
東京を中心に演劇の創作をする池田智哉のソロユニット、feblabo(ふぇぶらぼ)
事前に分かるストーリーは?
劇団ホームページには、こんな記載がありました。
映画館、漫画喫茶、居酒屋、キャバクラ、
風俗店やホストクラブ、ラブホテル、パチンコ店が立ち並び、
「眠らない街」、「東洋一の歓楽街」、「欲望の迷宮都市」と呼ばれる歌舞伎町。その歌舞伎町の一角にある「ホテル・ミラクル」。その一室で起こる千夜一夜の物語。
濃くて、甘くて、苦い、くらくらする。
ちょっとエッチな短編集、ななかいめ。
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『よるをこめて』脚本:笠浦静花(やみ・あがりシアター)「話し合おうってば、ねえ」
「あのさあ、今、自分だけが、イラついてるわけじゃないんだからさ」
「だって、なんで!」
「ほら、そう……無理じゃん」
「無理って何!?」
「無理っていうのは、別に、そういう意味じゃないじゃん。だから……。あー、いやわかった、
話し合おう、でもさ、この感じだとほんと難しいから、間にちょっと挟まない?」セックスレスカップルの話し合い、召喚された第三者の男(秘密厳守,時間給)。
体はふたつで心もふたつ。財布もふたつ。Fight!
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『Pの終活』脚本:ハセガワアユム(MU)おじさんである黒田がペニスの終活として3Pにハマっていくが、
相手の二人はその全容をまったく知らなかった・・・
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『48MASTER KAZUYA』脚本:目崎剛(たすいち)四十八手を極めし男・KAZUYAは、その技術を持って世の女性
(時には男性も)を快楽に導くため日夜奮闘していた!
そんなある日、KAZUYAの命を狙い、謎の組織から刺客が放たれる!
KAZUYAの性技が通じない・・・!
仲間によって一命を取り留めたKAZUYAは、新宿のとあるホテルに一時身を潜める・・!
KAZUYAよ、再び立ちあがれ!(二つの意味で!)--
『光に集まった虫たち』脚本:本橋龍(ウンゲツィーファ)生きものの進化は、目的でなく結果である。
ただそれの形をしたものが、ここにおいて都合が良かったらしく、残っていった。
こことは例えば、時期によって温度差の激しい小さな列島であった。
その中の特別人々が集まる都市であった。その中の性行為に適した部屋を持つ施設であった。
男と女はそこに訪れた。男にはほんの少しの罪悪があった。女にはほんの少しの諦めがあった。
観劇のきっかけ
feblaboの公演は何度か観ているのと、注目している劇団、やみ・あがりシアターの笠浦静花さんの脚本のある公演だから、の観劇です。
ネタバレしない程度の情報
上演時間・チケット価格・満足度
観劇した日時 | 2019年10月10日 20時00分〜 |
価格 | 3500円 全席自由 (事前にネット予約) |
上演時間 | 165分(90分-休5分-70分) |
個人的な満足度 CoRichに投稿 | ★★★★☆ (4/5点満点) |
客席の様子
男性4割、女性6割くらい。いろいろな年代の方がいましたが、若めの人が多かったように思います。
観劇初心者の方へ
性に関する話題を扱いますが、ものすごく下品とか、グロいものはありませんでした。性に対する表現に、極端に嫌悪をもよおす方以外は、割と安心して観劇できるかとおもいます。
観た直後のtweet
feblabo「ホテル・ミラクル7」165分、含休5分。
ラブホテルの部屋を舞台に、ちょっとHな話の4話オムニバス。
でもその実、深かったり、味わい深い話ばかりで、ものすごく楽しめた。「光に集まった虫たち」「よるをこめて」が特に良かったなぁ。予告より更に10分長いので、開演遅い回は注意。オススメ! pic.twitter.com/eeO2BJ6vK5— てっくぱぱ (@from_techpapa) October 10, 2019
感想(ネタバレあり)
ラブホテルの部屋を舞台にした、4話オムニバス。
全体として、割と静かで深い話が多く。単にHっていうだけではなく、性に対するテーマもしっかりと扱っていて。非常に楽しい時間でした。
ストーリーは、上記チラシ記載に任せて、感想を中心に。
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『Pの終活』脚本:ハセガワアユム(MU)
風俗の女の子、ユキに入れ込み始めたら、いろいろな事に気がついてしまった黒田。物語が進むにつれて、徐々に明らかになる黒田の闇。そんな彼の物語。
何がきっかけかは、詳しくは語られていない。でも、何かのきっかけで、人生がうまくいかなくなってしまったのだとは思う。そして、自らの性欲に、正直に生きてみたのだろうか。そんな、説明されない背景を感じつつ。コンドームに溜まった精子を眺めている様が、とにかく彼の困惑した状況をよく表していて。ものすごく切なくなってしまった。一方、ユキの視点。黒田の事をお客として見ていたはずが、気がつくと何か変化しているんだろうけれど。でも、自分から何かを言い出せないんだろうな、みたいな雰囲気がとてもよく。セリフにもある通り、「何かを言いだすと、この関係が壊れてしまいそうで」というバランスの上に成り立っている、三人。「終活」という言葉と、ラストのネクタイの下から、この人は自殺をするのかな、というのが推し量れた。自死を選ぶ、という事に対しては、自分の中であまり納得感はなかったかな。でも、勢いで男同士でキスをしてしまったり、前述のコンドームの下りが、彼の真剣さを表していて。最後、ちょっと幸福的なシーンが来るのは、何故か映画「アバウト・シュミット」を思い出したり。
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『光に集まった虫たち』脚本:本橋龍(ウンゲツィーファ)
何処までも童話的な話だけれど。「あなた誰?」という問いに対して、「この部屋に入り込んできた虫みたいにモノ」というのが深く。ラブホテル。男女が欲望をぶつけ合う場所で、不倫カップルがいるからこそ、あまり深刻にもならずに、童話的な設定を語れたのかな、という思いもあり。深くて、深くて、とても好きな空間だった。
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『48 MASTER KAZUYA』脚本:目崎剛(たすいち)
全編通して思ってしまったのは・・・うーん、目崎剛の演出で、たすいちっぽくしたのを、観たかったかなぁ、という事。ちょっと会話劇に寄り過ぎた演出だったように思う。
他の三作とは明らかに、脚本の作風が異なる。テンポとリズムと曲もバンバンつけて、ちょっとバカバカしい戦いを、スピードで押し切る形で表現してほしかったかなぁ。その中途半端さもあり、性に関する表現が、どこか、演じ手の「恥ずかしさ」が抜けていなかったように感じたかな。
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『よるをこめて』脚本:笠浦静花(やみ・あがりシアター)
セックスレスのカップルが、気分を変えるためにラブホにやってきたが、やっぱりだめ。男が勃起しない。・・・「少し間にはさんで、もう一戦」と提案する男、成行。間に挟むものは、・・・この状況を打破する第三者の「話の仲介人の男」だった、という話。
性を取り上げているのに、実は性を真っ向から取り組んでいない物語を、これまで多く観てきた気がして。その時の逃げ道は「語られない何かを、あえて作る事」。「語らないけれど、分かるでしょ」的な表現で、お茶を濁している場合が、実は今まで、とても多い気がしていた。テーマが「性」の場合、隠すことが美徳だからなのか、それでも何となく、お話になってしまうし。ちょっとエッチだから、観客も喜ぶし。そんな不満を持つことが、多々あったけれど。
・・・そんな今までの物語の不満に、真っ向から勝負しているように見えた物語だった。カップルのセックスレスの解消のために、話し合いの仲介人が登場し。しかも分給1000円と高額だから、話も急ぎたくなり。そんな中で赤裸々に語られる、男が勃起しない訳、女が求めているもの。セックスレスの訳と、それを受け入れられるか否か、の物語。
交渉人の力で「語らない」という事が許されない状況。この状況の作りこみ方が、とても巧みで面白くて。一方、語るという事は、死角、タブーを取り除くことだから。行きつく先には「手マン」だとか「飲尿」だとか、かなりきわどい話も出てきていたけれど。そういうアブノーマルな方向も、語る時に決して避けられない、という事を熟知しつつの話、なのが良くて。
ラスト。観ているこちら側は、ハッピーエンドに終わるはずがないと思っていたのだけれど。一見ハッピーに見せかけて、やはり別の道を歩む二人。ある意味、自分の行くべき道をしっかりと見出した、30分。最後の濃厚なキスは、ものすごく切なかったなぁ。30分の物語なのに、よくここまで語れるなぁ、と思った。
最近観たSWANDIVE×モミジノハナ「夏じゃなくてお前のせい」という作品を思い出さずにはいられなかった。この作品のテーマも、やはり「恋人なのに勃起しない男」。観た時の感想にも、何か語られていない事が多いんじゃないか、と偉そうに書いているけれども。『よるをこめて』は、語られない部分まで、鮮やかに語っている印象。テーマがほぼ同じな事もあり。変に避けずに赤裸々に語られている今回のストーリーを観て、どうしても対比を考えずにはいられなかった。
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気になった役者さん。
東尾咲、「また遊びに来てね」と辛うじて言うまでの表情が切なすぎる。佑木つぐみ、ミラクルや「月がとっても睨むから」他で、何度か拝見している役者さん。アラフォー?付近の、気だるいけれど自然なサバサバした感じの女性像が、いつも観ていて印象的で。伊藤貴史、ミクドクの時はちょっと優等生っぽいイメージが強いけれど、面倒くさそうなのに、虫集める感じが面白く。小野里茉莉、ビンタされる雌豚かわいい。廣川千紘、立ち姿やたたずまいが非常に美しいのと裏腹に、必死さがひしひしと伝わってきた。神山慎太郎、どこで見たか思い出せずだったが、桃尻犬「俺光ってるボーイ」でふてぶてしいガキ役で拝見していた。二人のやり取りが、とにかく切実で切なくて。ラスト、ベッドでののキスシーンは、ドキドキした。
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