<観劇レポート>東京夜光「BLACK OUT」
【ネタバレ分離】
観た芝居の感想です。
もくじ
公演前情報
公演・観劇データ
項目 | データ |
---|---|
冠 | MITAKA“Next”Selection 21st |
団体名 | 東京夜光 |
題 | BLACK OUT |
脚本 | 川名幸宏 |
演出 | 川名幸宏 |
日時場所 | 2020/08/21(金)~2020/08/30(日) 三鷹市芸術文化センター星のホール(東京都) |
団体の紹介
ホームページにはこんな紹介があります。
川名幸宏の作品を上演する団体。「下北ウェーブ2018」に選出され旗揚げ。
2018年12月「世界の終わりで目をつむる」を上演。三畳一間に住む貧困ミニマリスト男と宗教女の恋を描いた。2019年8月「ユスリカ」を上演。仲の悪い妹の結婚式で感動して泣いた経験から、憎しみ合う姉妹の物語を描いた。
自身の経験や、そこで得た感覚を普遍の物語に昇華し、繊細で綿密な会話劇と、ムーブメントによる空間演出を織り交ぜる試みをしている。
事前に分かるストーリーは?
こんな記載を見つけました
変わりたい。変われない。変われるかな。
ろくに仕事もできない。どっちつかず。中途半端。
いいかっこしい。多重人格。
今やプロフェッショナル化が進む「演出助手」という仕事。
時代の流れに逆らうように作家・演出家を目指して弟子となり、演出助手を始めた“嫌われたくない”私。
―この瞬間が一番ドキドキする、たすけて。
観劇のきっかけ
郵送DMチラシをみかけての観劇です。
ネタバレしない程度の情報
観劇日時・上演時間・価格
項目 | データ |
---|---|
観劇日時 | 2020年8月25日 19時30分〜 |
上演時間 | 140分(途中休憩 10分含) |
価格 | 3000円 全席自由 |
チケット購入方法
ホームページから予約しました。
当日、受付で現金でお金を払いました。
客層・客席の様子
男女比は7:3くらい。男女共に幅広い年代層で、特定の傾向はありませんでした。
観劇初心者の方へ
観劇初心者でも、安心して観る事が出来る芝居です。
・会話劇
・静か
・考えさせる
・シンプル
観た直後のtweet
東京夜光「BLACK OUT」140分含休10。
何度かじんわりと涙したが、周り涙少な目かも、浮き立つモノに感動した。コロナの物語。でも語りたいのはきっとコロナではないように思う。その意味でコロナを正しく配置した物語。中止になっていい舞台なんでない。それはコロナだろうとなかろうと。超オススメ! pic.twitter.com/diAwoSQqJ3— てっくぱぱ(芝居好き) (@from_techpapa) August 25, 2020
映像化の情報
情報はありません。
満足度
(5/5点満点)
CoRich「観てきた」に投稿している個人的な満足度。公演登録がない場合も、同じ尺度で満足度を表現しています。
感想(ネタバレあり)
劇団を作って、作・演出をして、どこか世に認められたい願望を持っている、真野。いつもは雇われの演出助手として、「商業演劇」で仕事をしている。コロナ禍が始まりそうな、2月末〜公演初日の4月頭。最近は映画に進出して舞台はやっていないけれど、久々に舞台に戻ってきた、個性的な作・演出の鬼木(きき)の助手として、演劇というよりアイドルよりのヒーロー・ヒロインの主役の舞台を作る。制作やスタッフは、真野がかつて一緒に演劇を作っていた人も参加していて、彼ら彼女らはプロに参加している。コロナの自粛が進んでいく3月の時間軸の中で、真野が、演出助手として向き合う舞台の制作の裏側、芝居を作る様を淡々と描いた物語。
結局、制作していた芝居は、4月頭、コロナの緊急事態宣言が出る見込みを受け、通し稽古を一度したところで、公演中止となる。冒頭から、その結末自体は読めていた。でもこの芝居は、別にコロナの事を表現している訳ではないのだろうな、というのを、観ている途中から物凄く感じる。コロナ禍の時間軸の中で、演出助手として作る舞台の中で、そして、自らの劇団が演劇祭の招待講演に選ばれた事を通して、「演劇」の中に何が見えたのかを、コロナ禍のフィルターを通して、純粋に語っているのだと思う。その意味でこの芝居は、普段演劇を作っていたり観ている人と、そうでない人とで、感じる事に差があるんじゃないかなぁ、と感じる。私は数度涙してしまったが、周りそれ程泣いている人を発見できなかったのはそのせいかもしれない。
作者が見ている演劇の中には、「やっぱり演劇って素晴らしい」…みたいな、楽屋モノの芝居には割とよくありがちなテーマも、当然、混ざっている。しかしむしろそれよりも、ネガティブな要素の方が沢山まざっていた。才能と年齢の残酷な現実…とか、「商業演劇」的なアイドルがチケットを売る演劇の是非…とか、自分がなりたい「作・演出」では評価されず、演出助手としての才能の方が評価される…とかいった、現実。淡々と描いているので、その一つ一つが、深刻には見えてこない。作者自身が見ている「演劇」というものを、コロナというものを通して見た風景の、スケッチ画の物語に思えた。むしろ、ネガティブな要素、結局脚本に口を出してきたアイドル俳優や、初舞台の緊張と自意識からSNSに変な事を投稿するヒロイン…とか、小劇場や、MITAKANext Selectionを観に来る層にとっては、どこか「演劇じゃない」的に映る作品を描きながら、それでも、そういったあまねく、演劇に対する愛…というか、そこに今いて表現する事の愛おしさを、淡々と表現した…。そんな芝居だった。
ここまで書いて、当日パンフを読む。事前のストーリーにもあったが、作者自身が、普段は実際に演出助手をしているようで、どこか自伝的な、自らの経験を舞台にしたような作品であることがわかる。きっと作者にとっての、経験談的な物語も、たくさん含まれているのだと思う。演出家と、演出助手の関係を観ていると、どこか、作者自身が見ている演劇の「陰」と「陽」が交互に入れ替わるような、そんな感覚さえ感じる。きっと、「演出家」も「演出助手」も、作者自身がなりたい像だし、見たくない像なのだろう。その両方が、それぞれの役側に、陰と陽の役割を入れ替わりながら、物語を描く感覚だった。
この作品は中間報告なのだろうと思う。「学校でいじめられたわけでもない、普通の家庭で育ったそんな僕が、ただただ演劇が好きでやってきた」事。このセリフ、ふと、昨年、この劇場で見た、(劇団)ゆうめい「姿」を思い出したが、演劇になるのは、そんな劇的な経験ばかりではない。描き方によっては醜く映ってしまいそうな「商業演劇」の舞台裏でさえ、実はそこにドラマが溢れていて。そんな何かを描く作者の、模索している表現の、中間報告的な舞台なのかな、と思う。
劇中、鋭い台詞が要所要所に散りばめられていて、本来なら台本を買って台詞を確認したいところ。特に覚えているのが「舞台を暗転から始めることにしたのは、誰だろう」「家賃四万五千円」から始まる会話が、あまりにも関係の本質を貫き過ぎていて怖くて。あと、平謝りした後の真野を、助手の座らせるために言った鬼木のぶっきらぼうな言葉「お前が面白くねえって言ったから、面白くするために稽古するだよ」というのが、物凄く印象に残る。
気になった役者さん。なんだろ、とにかく座組の役へのハマりが凄いので、、、全員書きたいところだけれど、特に印象に残ったのは。
東谷英人、もう圧倒的な存在感。怖い演出家的な、少しステレオタイプなところもある役だけれど(そんな説明ゼリフもあったし)、感情の流れが見えているのに複雑で、それでいて愛おしい。そんなキャラクターが、とにかく人として魅力的で、正に演出家、だった。丸山港都、実際の作者自身の役割を投影しているのに、どこか突き放した演技が印象的。モノローグでは淡々と進む演技と、鬼木に軽口を見られて謝っている様子のギャップが面白い。砂田桃子、福地清、アイドルのイメージそのまま。変にリアリティを感じ。高羽彩、以前タカハ劇団で拝見した時とは全く違った印象で、思わず劇中に、配役表を見て確認してしまう変容っぷり、凄し。大内唯、頑張っている女性、好演。笹本志穂、鬼木の劇団の古株員、こんな役者さんいそう、なリアリティが凄し。
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