<観劇レポ>KAAT「オイディプスREXXX」絶対観るべし。斬新な演出で展開されるギリシャ悲観劇

#KAAT,#杉原邦生

コロス(合唱隊)の演出が効果的!中村橋之助の堂々たる王。見逃せない。



f:id:techpapa:20181209102437p:plain


どもっ\(´▽`*)。てっくぱぱです。
KAATの最新プロデュース公演
「オイディプスREXXX」の、舞台を観てきました。

公演データ

KAAT神奈川芸術劇場プロデュース
オイディプスREXXX
神奈川芸術劇場(KAAT) 大スタジオ
脚本 ソポクレス 
演出 杉原邦生

観劇データ

日時2018年12月12日 19時00分〜
価格6500円 全席指定(事前にネット予約)
上演時間110分(途中休憩なし)
★★★★★(5/5点満点)

客席の様子

演劇が好きで来ている方と、あまり劇場慣れしていない方が半々くらいの印象。後々考えると、歌舞伎のファンの方も多かったのかな。
当日券も出ていたけれど、舞台は9割方満席。これは評判が伝わると、突如席が埋まると思いますので、ご予約はお早めに。

KAATプロデュース。演出は杉原邦生

この作品は、KAAT(神奈川芸術劇場)プロディース。演出は杉原邦生。様々な舞台作品を演出している若手の演出家。これまでの劇評を読むと、演出手法が斬新な点が注目されているようです。
KUNIO official website

ストーリー

お話は、ギリシャ悲劇の名作。KAATの紹介ページには、このように書いています。

父を殺し、自らの産みの母と夫婦となった若き王が、破滅への道を転がり落ちるまでを描いたギリシャ悲劇の傑作『オイディプス王』を、中村橋之助、南果歩、宮崎吐夢ら実力派キャストを迎え、若手演出家・杉原邦生が新たな切り口で上演します。
テーバイの都に突如襲いかかってきた疫病の原因が、先王ライオス殺害の汚れにあるとアポロンの神託によって知らされたオイディプス王は、早速犯人糾明に取りかかる。その犯人が実は自分であり、しかも産みの母と交わって子を儲けていたことを知ると、自ら目を潰し、王位を退く。

という事で、ここから大きく外れてはいません。
シェークスピアなどと同様、古典芸能にはありがちですが、どうしても「感情」をセリフで表す事が多く、観ているとちょっと長いな、と感じてしまう事があります。
その意味で、演劇慣れしていない方の観劇を、無条件でお勧めは出来ません。
ただ、今回の舞台は、その観難いギリシャ悲劇を、かなり斬新に切り取っているので、観劇初心者の人がチャレンジするのもアリかもしれません。

演出の妙

まずは、中央のステージに、四方から舞台に向かうように配置された客席。KAATの大スタジオに入ったのは今回が初めてだったのですが、この劇場にこんな空間があったのか・・・という驚きでいっぱいでした。今回、どういう訳か、予約を頑張ったわけではないのに、最前列の席で観ることができました。目の前を俳優が走り回っていく。手の届きそうな場所にいる、快感。
f:id:techpapa:20181213102503p:plain:w300
その中に、劇場を揺さぶるような音響。鮮やかな照明。彩られる空間の中に出現する、ギリシャ悲劇の世界。音響、特に感情が動くシーンでは、鈍く重い重低音が流れるのだが、物語を紡ぐのに効果的。照明は、儚く美しい。舞台という、ある種日常から区別された空間が、KAATの中に完全に出来上がっていた。

そして、本編。
ギリシャ悲劇上「コロス」と呼ばれる合唱隊(ミュージカルだと「アンサンブル」といわれる立ち位置)が、全員黒い衣装の男たち。時にはサングラスをかけ、踊り、ラップで歌いだす。このラップ・ミュージックが効果的。悲劇「オイディプス王」の物語を、時には客の視点、時には民衆の視点で、紡いでいく。

個人的なこれまでの経験として「ラップ」の語調を舞台に持ち込んで、成功している例をほとんど知らない。舞台の役者が「ラップ」のリズムで語られる瞬間、私の中で、舞台の魔術が消えてしまう。舞台の客席内の連帯として、何だか排斥するような場面を、これまで何度も観ている。いわゆる「同化」を妨げられて、強制的に、二日酔いのような質の悪い「異化」を迫られる。時に観ている方が恥ずかしい思いをするような場面になってしまう。残念ながら「ラップ」は、舞台には似合わない。私としてはそう結論していたが。

この舞台は全く異なっていた。むしろ悲劇オイディプスを「ラップ」という軽い軽快なリズムに包むことによって、現代でも成立しうる表現に昇華する。舞台美術、音響、照明とも相まって、この「ラップ」の効果は絶大な威力を発揮している。

「コロス」は、単なるアンサンブルではない。物語の中で、時に民衆として、時に観客の代表として、王オイディプスに話しかける。しかも、通常アンサンブルは没個性になることが多いのだが、出演しているコロスはどれも個性的。観劇して少し時が経っても、全員の顔を思い出すことができる。この「コロス」の展開が何よりも、このギリシャ悲劇の舞台を、現代流に提示するには効果的な仕掛けになっていた。コロスを演じたのは、大久保祥太郎、山口航太、箱田暁史、新名基浩、山森大輔、立和名真大の6名。

その中で紡がれる、中村橋之助演じるオイディプス王。
中村橋之助は、今回ストレートプレイ初。私は歌舞伎は観ないので、彼の歌舞伎界での活躍は全く知らない。確かに歌舞伎の流れを組むような表現を何度も見出すことができた。しかし、彼の所作は、王オイディプスを演じることと、非常に相性が良い。王として、民を支配統治する凄みと、最後、目を潰し果てていく様は、真に迫った迫力を伴っていた。


主にオイディプス王の妻を演じる、南果歩。
気が振れてしまう妻の心情の過程を、丁寧に演じている印象を受けた。また、妻の死を民衆に告げる、第二の死者の立ち姿が、前述の舞台照明の中に生えてカッコいい。


複数役をこなして、物語に進展の作用を与える、宮崎吐夢。
彼が登場し、セリフを話すと、何だか突然舞台が安定する安心感がある。複数役を一人で演じ、笑もきっちり取ってくれるのだが、盲目の預言者テイレシアスの演技は、観ているこちらが「ぎょっ」としてしまうような感覚を見事に演じていた。

オイディプス王じゃなくてREXXX

公演名を「オイディプスREXXX」とした経緯、最終的な意図は不明だが、見習うべき好例のように思う。単に「オイディプス王」とすると、古典なだけに検索エンジン等でこの公演が特定されてヒットしない。ラテン語で王を表すREXという語の語尾に、勢い余ってXXをつけた…のだろうか。
唯一の難点は、読み方が「れっくす」で本当にいいのかな?とちょっと迷うくらいか。チケットの問い合わせをする時、「れっくす・・・ですか?」と言ってしまった事を付け加えておく。

絶対見ておくべき

この公演は、絶対に観ておくべき作品。公演は、12月24日まで。


舞台#KAAT,#杉原邦生