観劇・感想レポート/「ビッグ・フィッシュ」2019年東宝ミュージカル“12 chairs version”
観た芝居の感想です。
もくじ
公演前情報
公演・観劇データ
団体名 | 東宝 |
題 | ビッグ・フィッシュ |
回 | 2019年“12 chairs version” |
脚本 | ジョン・オーガスト |
演出 | 白井 晃 |
日時場所 | 2019/11/01(金)~2019/11/28(木) シアタークリエ(東京都) |
団体の紹介
東宝のプロデュースのようです。
演劇|東宝オフィシャルサイト
事前に分かるストーリーは?
こんな記載を見つけました
エドワード・ブルーム(川平慈英)は昔から、自らの体験談を現実にはあり得ないほど大げさに語り、聴く人を魅了するのが得意。
自分がいつどうやって死ぬのかを、幼馴染のドン・プライス(藤井隆)やザッキー・プライス(東山光明)と一緒に魔女(JKim)から聴いた話や、共に故郷を旅立った巨人・カール(深水元基)との友情、霧の中で出会った人魚(小林由佳)の話、団長のエーモス(ROLLY)に雇われたサーカスで最愛の女性、妻・サンドラ(霧矢大夢)と出逢った話を、息子のウィル(浦井健治)に語って聞かせていた。
幼い頃のウィルは父の奇想天外な話が好きだったが、大人になるにつれそれが作り話にしか思えなくなり、いつしか父親の話を素直に聴けなくなっていた。そしてある出来事をきっかけに親子の溝は決定的なものとなっていた。
しかしある日、母サンドラから父が病で倒れたと知らせが入り、ウィルは身重の妻・ジョセフィーン(夢咲ねね)と両親の家に帰る。
病床でも相変わらずかつての冒険談を語るエドワード。本当の父の姿を知りたいと葛藤するウィルは、以前父の語りに出ていた地名の登記簿を見つけ、ジェニー・ヒル(鈴木蘭々)という女性に出会う。
そしてウィルは、父が本当に伝えたいことを知るのだった-。
観劇のきっかけ
白井晃演出作品だという事と、ミュージカルが観たかったからの観劇です。
ネタバレしない程度の情報
観劇日時・上演時間・価格
観劇日時 | 2019年11月4日 12時00分〜 |
上演時間 | 170分(80分-休20分-70分) |
価格 | 12000円 全席指定 |
チケット購入方法
公演ホームページからリンクをたどり、チケットぴあでクレジットカード購入しました。
セブンイレブンで発券しました。
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b1938683
客層・客席の様子
女性が95%。男性は女性の連れが殆どでした。女性も若い人は比較的少なく、40代~60代が目立ちました。
観劇初心者の方へ
観劇初心者でも、安心して観る事が出来る芝居です。
・ミュージカル
・泣ける
・笑える
・親子愛
観た直後のtweet
東宝「ビッグ・フィッシュ」170分含休20分。
映画版含め初見。
フワフワした話なので術中にハマるまで少し時間を要したけど。あぁすごいなぁ。大人の童話とはよく言ったもんだ。童話であり賛歌。パパ世代に観て欲しい。川平慈英、最高。
客電アナウンスも誰も帰らずトリプルで総スタオベ。超オススメ! pic.twitter.com/ydnyeANNBQ— てっくぱぱ (@from_techpapa) November 4, 2019
映像化の情報
ティム・バートン監督の映画版があります。
満足度
(5/5点満点)
CoRich「観てきた」に投稿している個人的な満足度。公演登録がない場合も、同じ尺度で満足度を表現しています。
感想(ネタバレあり)
映画も含めて、物語は見たことがなく全くの初見。
ストーリーの大筋は、事前の記載の通り。ストーリーをからめつつ、私自身の感情の流れを追ってみることにする。
Act 1。川平演じるエドワードの言っている事が、ちょっと突拍子もない事が多くて、随分と蜂蜜漬けな甘々な世界だなぁ、というのがAct 1中盤くらいまでの感想。「大人のための童話」という、事前のキャッチフレーズもあったので、ひとまずは言われるがままに観ていた感覚。この時点では、面白いとかつまらないとか、そういう感覚はあまりうまれなかった。その中で、川平慈英の演技が妙に能天気で明るくて、観ていて楽しいので、その点は楽しんでいたのだけれど。Act 1後半、のサンドラとの馴れ初めから結婚に至る過程と、エドワードが実は浮気をしていたんじゃないか、という疑惑が出てくるあたりで、グググと引き込まれる。父は、壮大な例え話を息子にしているのだ、というのが何となく見えてくると、甘い世界にも、意味がありそうな気がしてきて、intermissionへ。
Act 2。エドワードの浮気を問い詰めて、調査する息子ウィル。実はエドワードは、アストンの町を救っていて。結局のところ、エドワードが自慢気に話す話は、当然、ある種の嘘ではあったのだけれども、そこに真実が全くなかったのか、と言われると、そういう訳でもない。父は確かに、世界を救った「ビッグ・フィッシュ」だったのだ。エドワードの病床で、その事を悟るウィル。魔女に言われた、とエドワードが話していた光景が現れる。その部分で、エドワードが観る光景、ウィルが見る光景が、あまりにも眩し過ぎて、ボロボロと涙が止まらなくなってしまった。そして生涯を終えるエドワード。葬儀には、父が冒険の中で出会った人々が、父の誇張を少し小さくした形で表れる・・・。
父として、自分のしてきている事をどこか大げさに、しかし真実を隠しつつ語りたい、という願望は、今父親である自分にとっても理解できる。でも、息子に対して、真実をそのまま伝えても、多分理解してもらえないだろう事もよく分かるので、誇張であったり、話を大きくしたくなる、という事も。そして、私自身の父との経験からも、その創られた父の像が、二人の関係を悪くする原因になってしまう事も。この構造を、「大人のための童話」父が吹聴する大げさな、ホラとも現実とも付かない話として提示していて。Act 1の終盤で、その事に思い当たった時には、思わず膝を叩いてしまいそうな感覚だった。休憩を挟んだのち、思い描いていたような展開が来たものだから、涙が止まらなくなってしまった。客席に女性が多かった事もあり、この感覚を女性がどう受け取ったのかは気になったが、概ね同じ場面で涙をぬぐう動作や、すすり泣く音が聞こえたので、女性視点でも似たような感覚を持ったのだろうと思う。
一点、ほんのりと感じた事。この物語が、アーサー・ミラーの「セールスマンの死」の、アンチテーゼになっているような気がしたこと。昨年、KAATでの舞台を観たのだが、セールスマンの死のウイリーとエドワードは、ストーリー的にも、全く対極に居る。あの舞台を観た時、物語の中でのウイリーの苦悩は十分理解出来たものの、ウイリーが死ななきゃいけない理由が、父親の一人として観ている自分の中では全く腹に落ちなかった。資本主義の中で翻弄されつつも、ウイリーはやはりどこか、自滅しているかのような感覚さえ覚えた。
「ビッグ・フィッシュ」に出てくるエドワードは、完全に対極。ホラなのか大げさなのか、よく分からない話をしながら、釣り糸を垂れて、酔っぱらって息子の結婚式で粗相をやらかしちゃうような。その方がいい。生きて、ちょっと「盛った話」をして、でもしっかりと世の中の役には立つ仕事をしていて。ミュージカルには、元気をもらいたいと思っているけれど。前半、単に川平慈英の能天気さに楽しさをもらっていたけれど、後半、物語のベースライン、「父の伝えたい事」に、とても大きな元気をもらえた気がする。その「元気の振りまき方」が、今まで観たどのミュージカルとも異なっていた。
一点。「ビッグ・フィッシュ」は、2017年の初演から、ほぼ同じキャストでの再演との事。今回私は、白井晃の演出、というだけでチケットを取って、予備知識を殆ど入れずに観に行った。ミュージカルとして気になったのは、アンサンブルに当たる役者が出演しておらず、どうしても物語の各シーンが「弱く」映ってしまったこと。空間を産めるだけの迫力を欠いている。単に人数が少ない、という印象。「これ、本家ではアンサンブルが居たけれど、日本に持ってきたときに削除したんじゃないかな。」と観ながら思ったのだけれど。
その予想、当たりでもあり、ハズレでもあった。制作会見のインタビューを引用すると。
白井--この度は『ビッグ・フィッシュ』再演を行うことが決まりまして、本当に嬉しく思っております。思えば2年半前、2017年の2月に、日生劇場でこの作品をやりまして、2月28日に終わった時には「あぁ、この作品とお別れしなければならないのは本当に寂しいな」と思っていました。再演したい、再演したい、と思っておりましたので、本当に、心から嬉しく思っております。
この話はちょっと奇想天外な話ではあるんですけれども、実のところはどこの家族にでもあるような親子の確執や誤解の話でもあって、皆さんにもご自身と重ねて観ていただくことができる、すごく素敵な作品に仕上がっていました。これを今回はクリエで上演させていただくということで、今度は主要メンバー12人だけに絞ったバージョンとなります。雰囲気としては初演のイメージを踏襲して上演していきたいと思っていますが、出演者の皆さんにとっては12人に絞られたことで、むしろ前回よりもハードな作品になるかもしれません。この作品をまた皆さんにお届けできる、ということを大変嬉しく思っております。よろしくお願いいたします。
(白井さんへ)“12 chairs version”とはどういった意味なのかを改めてお聞きしたいのと、今回劇場がシアタークリエへと変わりますが、演出がどのように変わられるのかをお聞かせください。
白井 この“12 chairs version”というのは、言ってみれば“12 members version”とも言えて、12人でやる別のバージョンということを強調したかった、ということです。向こうでは12脚の椅子をつかってやる、という表記もあったものですから、12 chairs versionという名前にしましたが、意味合い的には12人で全部やるという、その分濃縮されている、という意味合いだと受け取っていただければと思います。空間的には日生劇場からシアタークリエに替わりますが、私自身、12 chairs versionだからといってシンプルな空間に終始しようとは思ってもいません。日生劇場で我々が一緒に創った空間を凄く愛してもおりましたので、基本的にはあの空間をできるだけ凝縮した形で再現したいと思っております。もちろんナンバー等も変わっているところはりますが、演出の仕方としては前回を踏襲してやっていきたいなと思っています。
上記「6月28日(金)、都内にてミュージカル『ビッグ・フィッシュ』の合同取材会」記事より引用
シアタークリエ ミュージカル『ビッグ・フィッシュ』
よくよく見ると、今回は“12 chairs version”と記載されているのに気が付いた。主要キャスト12人のみの、再演。初演時には、おそらくアンサンブルがいたのではないか、と想像する(初演時に、どのような布陣だったのか、少し探した限りでは情報がなく分からなかったが)。12人のキャストが物足りなかった、という訳ではないのだけれど。やはりミュージカルならではの空間の作り方の迫力に欠いているなぁ、という点を、あちこちで感じたのは否めなかった。日生劇場からシアタークリエで、キャパも大幅に小さくなっての再演。脇役にビッグネームを配している事もあり、興行的には仕方ないのかもしれないが、ここまで知ってしまったからには、フルバージョンでの再再演を期待したい。
気になった役者さん。川平慈英、もう最高。最高。最高でした。男の私が男優さんにここまで絶賛するのは中々ないかも。エドワード、という父の像と非常にマッチしていて、良かった。霧矢大夢、やはり彼女が、一目ぼれしてしまうくらい美人で無いとダメなんですが、見ていて本当に美しくて。サーカスで踊りを披露している所と、水仙のシーン、ラストが美し過ぎた。小林由佳、人魚を中心にした脇役だったけれど、体の柔らかさがとても奇麗に見えて印象的でした。ROLLY、久々に拝見しましたが、こういう役はとても似合うなぁ。好き。