<観劇レポート>第58回神奈川県高等学校演劇発表会

#芝居,#高校演劇

【ネタバレ分離】

神奈川県の、高校演劇の県大会を観てきました。
2日間で、13校の演目が上演されますが、そのうち、16日に上演された4演目の感想です。

公演前情報

公演・観劇データ

名称第58回神奈川県高等学校演劇発表会
日程2019年11月16日(土)~17日(日)
会場神奈川県立青少年センター

観劇した演目

学校名タイトル作者日時
県立麻布大学附属高校えーあいこすけ16日12:00~
県立横浜翠嵐高校全日制ダイナマイトと蛙たち柴田北彦16日13:45~
県立神奈川総合高校O-dentity古谷泰三16日14:55~
県立瀬谷西高校それでもだれかとつながってる中原久典16日16:10~

最優秀校

2019年11月17日 21:14追記
twitterで得た情報ですが(公式情報を確認していませんが)
たまたま拝見した以下の学校2校が、関東大会に推薦されたようです。
県立麻布大学附属高校
県立瀬谷西高校

満足度

★★★★★
★★★★★

(4/5点満点)

CoRich「観てきた」に投稿している個人的な満足度。公演登録がない場合も、同じ尺度で満足度を表現しています。
ここから先はネタバレあり。
注意してください。

感想(ネタバレあり)

県立麻布大学附属高校「えーあい」

作:こすけ

近未来、高校の部活。競技「アルティメットにらめっこ」=アルニラ部の生徒たち。AIがかなり普及していて、高校の部活の育成にもAIが使われていて。ライバル部活に勝つ為に、AIを使うがどうか、葛藤する物語と。その部活で一緒だったことで恋に落ちて結婚して生まれてくる2人の子供が、胎児の段階でその馴れ初めの一部始終を見ている。どうやら将来は、生まれる前にAIが、胎児に「幸せかどうか」を教えてくれるらしい。子供が父母の馴れ初めを俯瞰して見ながら、「アルにら」の高校の部活の物語が展開する。

高校の仮想的?なおもしろ部活「アルにら」の青春物語に乗せつつ、AIに仕事を奪われるんじゃないか、創造性を奪われるんじゃないか、というような、誰もが感じている不安な部分をオブラートに包む事でうまく捉えて伝えている物語。AIの危険性の話とも取れるし、新しい技術と付き合っていく物語とも取れる。また、純粋に「高校生、部活頑張る」の青春ものとしても取れて、解釈する側に、遊びを残して渡してくれていて、物語が多層に取れるのがいい。一方その光景を未来の子供が胎児として眺めている、という設定も物語の進め方として面白い。殆ど音楽を使っていないのに、舞台の物語から意識が途切れる瞬間が殆どなく、躍動感のある舞台に引きこ込まれ続けた60分だった。役者さんがとにかく個性的。主人公たちの学校の四人と、敵の学校。そして、シリクサと、ルンパッパ?かな。特にルンパッパのロボットの動きは、ものすごくリアルだった。場面転換もスムーズで、観ていて飽きる時間が殆ど無かった。

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県立横浜翠嵐高校全日制「ダイナマイトと蛙たち」

作:柴田北彦

蛙たちの物語。ダム工事に伴うダイナマイト爆破で、住む場所と平和を奪われた蛙たち5匹。ダイナマイトの使い方を覚えた蛙たちは、ダイナマイト同盟を組んで、人間たちに破壊工作を繰り返す。しかし、冬眠の冬が訪れると、仲の良かったダイナマイト同盟にも亀裂が入ってくる。冬眠場所からダイナマイトを持ち出してほしいという懇願と共に、一匹の蛙が雪の中を飛び出す。

蛙が、人類だったり、受動的な人間だったり、国家だったりと、自らの利益を確保すれば、結局他者を攻撃する材料にもなりかねない・・・、というような構造のメタファーとして物語が展開する。既成の脚本、という事だけれども。不条理劇に近いと思う。蛙5匹の物語なので、どうしても話が平坦になりがちなのかな。セットも衣装も、白で統一のシンプルなものだったので、途中で蛙たちの個性が掴めなくなってしまった。・・・そういう狙いだったのかもしれないけれど、蛙の個性をもう少し前面に出した演出が欲しかったかなぁというのが正直なところだった。過去、いろいろなところで上演されているようだけれど、少し調べてみると同じような感想が目立ったので、高校生たちの力量というより、脚本の限界にぶち当たってしまったのか・・・という面も感じた。

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県立神奈川総合高校「O-dentity」

作:古谷泰三

ODN365のオーディションに集まった女性たち。お互いをそれぞれの名前で呼ばず、コードネームで呼ぶように言われて。オーディション参加者で協力して、少し変わった課題を課される。課題の合間の休憩時間に、次々と人が消えていく。その人達は「次のステージ」に行った、と説明される。やがて、残った女性達は、課題のおかしさに気が付いてオーディションを止める、と言い出すが、気が付くと自らの名前すら覚えておらず、何処から来たのかも覚えていない。そんな中オーディションを続ける、という選択肢を辛うじて押し切って、自分の道を進みだす物語。

不条理劇だろうか。別役実の世界のような、あるいはどこか「注文の多い料理店」を連想させる部分もある。「オーディション」と呼ばれるものが、社会、特に「学校」の隠喩になっている。作られた社会、作られた価値基準の中で、とにかく誰かに認められて「次のステージに行きたい」という思いが、あまりにも切実過ぎて、途中で比喩に気が付いたときにとても空恐ろしい物を感じた。ラスト、オーディションを拒否した女たちが、客席に飛び出して幕。内心「ここで幕が降りてきたら逆効果だなぁ」と思っていたのだけれど、舞台から飛び出して終わる、という、幕を飛び出る、とても印象的な幕切れだった。ラスト5分で、「自らの道は自ら選ぶ」「失敗を恐れない」的なセリフが続いて、歌まで歌ったのだけれど、私はこの部分は蛇足だったように思う。中盤、オーディションが何を意味するかを、客はちゃんと把握していると思うので、あえてテーマを、弁論大会的に語る必要はない、という気がした。ただ前向きに、生きる様を見せて、終わりにすればいいんじゃないかなぁ、と。

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県立瀬谷西高校「それでもだれかとつながってる」

作:中原久典

万引きをして、親が迎えに来る高校3年生と。個人面談のために、親が学校に来る高校1年生。たまたま隣の部屋ですることになったことから、二人の生徒が交錯する、放課後の60分をそのまま切り取った物語。万引きをする女子生徒は、(どうやら本当の両親とは死別したりしていて)血のつながりのない両親に育てられている。そこに、妊娠中の個人面談の生徒の母が入ってきて、和ませるような会話が続くも・・・なお話。
ラスト10分、涙が止まらなかった。役者さんのメリハリがキビキビしていて、笑いをとるツボは心得つつも、しっかりしっかりと、確実な会話で時間を紡いでいく感覚。最初に出てくる「げんこつ」の下りで、なんとなくラストは想像できたのだけれど。たまたま出会った、妊婦と、女子生徒の交流が、とても自然な演技の中で描かれていた。既成の脚本とは思えないくらい、この座組、この演劇部にマッチしていたと思う。他人が他人である事、それでも、関係を大事にすること。そんな暖かい眼差しの時間が、ゆっくり流れていた。観れてよかった。しばらく余韻が残っている。

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