2019年下半期、勝手に観劇ベスト9
2019年下半期(7月1日~12月31日)に観た芝居、85本の中から、ベスト9を選んでみました。
観た芝居リスト
てつくぱぱ 2019年観劇一覧 – なんかくうかい
上半期はこちら。
9本にしたのは、上位1割くらい、の意味からです。
あくまで、個人的な印象の大小を比較しています。
観劇した順番です。
もくじ
2019年下半期ベスト9(観劇した日付順)
(7月8日) KAAT神奈川芸術劇場「ビビを見た!」
絵本を下敷きにした物語。絵本も買って、読まなきゃ・・・と思いつつ、いまだ果たせておらず。この物語は盲目の少年が主人公なわけですが、冒頭の「ド暗転」から始まる演出が忘れられません。客席でそろって手を叩いた感覚や、少年の「盲目」という感覚を味わおうとする試みで、ただ暗転しているだけではあるのですが、とても斬新でした。この日は気が向いたので、普段は敬遠するアフタートークに参加したのですが、この時の話も印象に残っています。物語が多層構造で、いろいろな解釈が出来る作品になっている点が、とても印象的でした。脚本・演出の松井周さんが、「この作品には様々な解釈が存在しうるし、その解釈の多様性が魅力である」と話されていました。主演の岡山天音さん、松井周さん、KAAT芸術監督の白井晃さん、それぞれの解釈が全然異なるにもかかわらず、それぞれの意見が説得力がある感覚。誰かの解釈を聞くと、新しい視点に気がつける、という点がとても面白かったです。私は特に「子供の成長と、親の干渉」という視点で観てしまいました。
(8月27日) 青少年のための芝居塾2019「ギンテツ」
正直に言うと、青少年のための・・・なので、観劇前、自分の中にちょっとナメてた感覚もあったように思うんです。演劇教室の発表会かな、くらいに。観てみてビックリ。出会った空間はかなり濃厚で、忘れられないものでした。全くもって裏切られました。「銀河鉄道の夜」、童話的な部分がかなりを占める話だと思うのですが、その童話的な幻想を、惜しげもなくストレートに、幻想的に表現されていました。とにかく、その場にい続けたい、愛おしい空間、という感覚がしばらく拭えませんでした。「芝居塾」がどのようなスタイルで運営されたものなのか、までは確認しなかったのですが、若い役者さん・・・女性が殆どでしたが・・・体当たりされたんだろうなぁ。照明が奇麗で、これも青少年の塾生のなせる業なら、ぬぬぬ、すごいなぁ、と感心したのですが。照明はプロが担当されていたようで、名前を確認すると倉本泰史さんでした。90年代以降の名作劇で、照明家を確認すると、 倉本さんが担当されている事多いですよね。最近、私の観る芝居ではお見かけしていなかったのですが、これもまた観れて良かった、の一言です。
(9月12日) 鵺的(ぬえてき)「悪魔を汚せ」
先日、観劇三昧でも、有料枠の動画としての公開が始まりました。観てみようかな、と、一瞬、思ったんですがね。・・・いやはや、この作品、困った事に観れないんですよね。2度、観れないです。今回は再演との事で、初演を観た方の感想も、チラホラ見かけたのですが。・・・よく2回観る気が起きるな、と(笑)。人の悪意・・・しかも、良く生きようとしたときに生じる悪意、みたいなものを、まじまじと直視しないと、この芝居、観れないんですよね。なので、一度観たらお腹いっぱい。今でも、主人公の佐季と一季の、あのラストの表情、思い出すだけで苦しくて。2度観るのはいいやパス、と思う訳で(笑)。観劇後の日常生活の中で、佐季のような表情をしている人を見かける事があって。その度に、この劇の事を思い出します。どうしたらいいのかな、と戸惑ったりもしたり。心に引っかか傷を残していくような、人間の見たくない部分を直視した、演劇でした。逆に、一度は観た方がいい話ですね。
(9月13日) NICE STALKER「暴力先輩」
後々思い返してみると、ちょっと理屈っぽい方向に傾いている作品かな、という気もしなくもないんです。感想を書き切ってから、当日パンフを見たら、サンデル教授の「これからの正義の話をしよう」等が参考文献で。観る側の感想として感じ取りはしましたが、まさか参考にしているとは思わず、本当に驚きました。私の好み、っていう意味ではど真ん中ストライクの作品。サンデル先生ブームは終わってしまったけれど、この芝居で取り上げられていたテーマって、今の世で考えないといけない事のように気がしています。今後、この芝居を観たことをふと思い出すような、社会的な事件が、増えたり、突発したり、するんじゃないかなぁと感じています。答えのない、語ることに意味があるテーマなので、なかなか何かに帰結しない分、難しいのですが。セット、舞台様式、アイドルっぽい軽い感じで、テーマとは裏腹の軽い感覚にも驚きでしたが、こういう深いテーマを、サラリと語るスマートさも、好きになったポイントでした。次回公演が楽しみ。
(10月8日) ゆうめい「姿」
・・・実は、芝居の内容をあまり覚えていないんですよね。強烈な、空間の残像の感覚だけが頭と心に残っている、そういう「余韻」の芝居でした。頑張って断片的に思い出すと、舞台装置が蝶つがいのように稼働したり、冒頭VRを使っていたり、客だしのアナウンスが作者の実のお母様だったり。そんな断片的な記憶の中に、ものすごく深く重い想いを感じた舞台でした。その後、母役をされていた高野ゆらこさんの演じられている芝居を観て、ああ、「姿」でのあの母の像は、演技なんだよなぁ、という当たり前のことを思ったりしました。母の像。そこからの決別。ものすごく痛い感覚でした。街中を歩いていて、偶然「ハッピー・サマー・ウエディング」を聴いたりすると、頭の中で、父が踊り出し、あの強烈な印象が蘇ります。元々の「曲の印象」を上書きする、芝居でした。
(11月4日) 東宝ミュージカル「ビッグ・フィッシュ "12 chairs version”」
いつもの通り、前情報をあまり入れずに観にきました。知っていたのは「映画化もされている」「キャッチフレーズ:大人の童話」そして選んだ理由の「白井晃演出」。すごく印象に残っているのは、「大人の童話」っていうキャッチフレーズが、とてもとても、よく分かる瞬間があって。ガッテンする感覚と言うのでしょうか。1幕の最後の方、水仙が出てくるあたりからの「童話」への引き込まれ具合がたまらなかったです。女性が多い客席でしたが、父親とか、夫婦で観て欲しい劇だよなぁ、と客席の男性の少なさを恨みました。その後、ティム・バートンの監督した映画も観ました。ミュージカルではないのですが、この作品のテーマをしっかりと表現していて、こちらもお勧めです。
(11月16日) 第58回神奈川県高等学校演劇発表会 県立瀬谷西高校「それでもだれかとつながってる」
高校演劇からです。神奈川県の県大会で観ました。観劇当日の感想は、・・・1日に観た4本すべての感想を書くこともあって、かなりあっさり、書いていますが・・・なんかこれ、上手く書けないなぁ、何を書けばいいのかなぁ、というのが正直なところでした。その後何日間か、この芝居を引きずりました。思い出すと、突然涙が出てしまうような状況で(特に朝の通勤で、自転車に乗っている時)、今でもふいに思い出すとそうなります。ラストのあるシーン、母のある行動に帰結する物語なんですが、その部分を思い出すと今でも泣けてしまいます。既成の脚本という事なのですが、物語が優しさに満ち溢れていて。しかも、瀬谷西高校の座組が、その作品にハマり過ぎていて、ものすごいクオリティになっていました。この作品、県大会を突破して、関東大会に進んでいます。関東に進んでいるのに、twitter上などでこの作品に言及している人が極端に少ないのがちょっと悲しい。1月25日(土)に静岡で観る事が出来ます・・・上演順、初日の一番。関東高等学校演劇協議会のホームページ
(11月29日) 劇団ダブルデック「ピンポンしょうじょ→→」
客席が、舞台からのエネルギーを「受け止め切れない」っていう体験。よくよく考えると、初めてだったかもしれません。エネルギーが「スゴイ」とか「溢れている」とかいう表現はよくしますが、「受け止めきれなくて、そこかしこに、こぼれちゃっている(モッタイナイ)」な感覚。面白いのに、なんども時計を見たのも、初めてです。小さい小屋だからの、演出上の空間的な無理さと、小ささからくる粗さもあり、その点はどうしても残念に見えた作品だったんですが、多過ぎるエネルギーで運んでくる「ピンポン」っていう音が、いまだに頭から離れていないです。今回は再演との事。初演の方が凄かった、という意見も、かなりの数、見ました。えー、そうなの、初演の方が凄いの?観たかったなぁ。という羨ましさも持ちました。劇団ダブルデックは初見でした。今後、こんな作品が続くの?注目しています。
(12月25日) 虹の素「失恋博物館Ⅳ」
クリスマスの日。オッサンの私には特に予定もありませんので、探していた公演。・・・にしても、クリスマスに「失恋博物館」って・・・どこまで落とすのさ、どんな感じになっちゃうのよ、という気もしていたわけですが。全く相反していて裏切られました。思い思いの場所に座って観劇してもいいスタイルが、作品のテーマや雰囲気観ととにかくマッチしていました。チラシには、怖くて悲しい文句も書いてあるけれど、結果的にはとてもハートウォーミングなお話。演劇というより、集会に参加してきた感じに近いかも知れません。事前情報からは全く予想していなかったので、不意打ち効果もあり、とても楽しめました。虹の素、初見の「みなとみらい」は、あまり好みではなかったけれど、この作品、作風はとても好き。来年はKAATで芝居するようなので、こちらも期待。
次点(観劇した日付順)
ベスト9の次点になった作品はこちら。
(7月3日)なかないで、毒きのこちゃん「MITUBATU」
(8月1日) 浅利演出事務所/劇団四季「ミュージカル 李香蘭」
(8月15日) Aga-risk Entertainment「発表せよ!大本営!」
(12月4日) たすいち「足がなくて不安」
(12月5日) 劇団肋骨蜜柑同好会「殊類と成る」
(12月12日) ことのはbox「彗星はいつも一人」
(12月29日) MCR「貧乏が顔に出る。」