<観劇レポート>ゆうめい「ゆうめいの座標軸『弟兄』」
もくじ
公演前情報
公演・観劇データ
団体名 | ゆうめい |
題 | ゆうめいの座標軸「弟兄」 |
脚本 | 池田 亮 |
演出 | 池田 亮 |
日時場所 | 2020/03/04(水)~2020/03/16(月) こまばアゴラ劇場(東京都) |
ゆうめいの座標軸 | 演劇・ミュージカル等のクチコミ&チケット予約★CoRich舞台芸術!
団体の紹介
劇団ホームページにはこんな紹介があります。
舞台作品・美術・映像を制作する団体として2015年に設立。
自身の体験や周囲の人々からの「自分のことを話したい」という声を出発点として、生々しくも多種多様に変化していく環境と可能性を描き、その後、表現によってどのように現実が変化したかを「発表する」までを行う。
表現と発表をし続けることによって生まれる他者との共鳴と反発を繰り返し、現実に新たな視線や変化を見つけることを目指している。
ゆうめいの由来は「夕と明」「幽明」人生の暗くなることから明るくなるまでのこと、「幽冥」死後どうなってしまうのかということから。
「有名になりたいから“ゆうめい”なの?」と普段思われがちの名前から、由来のように「物事には別の本意が存在するかもしれない」という発見を探究する。
事前に分かるストーリーは?
こんな記載を見つけました
今の「ゆうめい」に至るまでの軸となる代表作『弟兄』『俺』『あか』を再演します。
自分や他者の体験に対して別々のアプローチを経て作り上げた別軸の3作品を通してより立体的に“ゆうめいの今までとこれから”を楽しんでいただければ幸いです。
そして新たな軸であるワークショップの発表公演もあります。1作品だけ観ても楽しんでいただけるようブラッシュアップを重ねて
あの時できなかったことと、今できるようになったことをぐるっとまとめて発表します。
みなさま、お待ちしてます!
観劇のきっかけ
前回の作品が面白かったからの観劇です。
過去の観劇
- 2023年05月01日 ゆうめい「ハートランド」
- 2021年12月31日 ゆうめい「娘」
- 2021年05月20日 ゆうめい 「姿」(2021年再演)
- 2019年10月09日 ゆうめい「姿」
ネタバレしない程度の情報
観劇日時・上演時間・価格
観劇日時 | 2020年3月4日 20時00分〜 |
上演時間 | 85分(途中休憩なし) |
価格 | 2000円 全席自由 初日割 |
チケット購入方法
劇団ホームページのリンクから予約しました。(CoRichi上)
当日、受付で、前売り料金を支払いました。
客層・客席の様子
男女比は半々くらい。年齢層も様々で、特定の傾向は感じませんでした。
観劇初心者の方へ
観劇初心者でも、安心して観る事が出来る芝居です。
・シリアス
・静か
・考えさせる
・いじめ
観た直後のtweet
ゆうめいの座標軸「弟兄」85分休無。
再再演とのことも、私は初見。なんと身を切るような表現の事。私自身は当事者の経験がないけど、もしあったら冷静に観れなかったかもしれない。悲愴感を笑えるか、というのがいろいろな事を暗に示しているのが、演劇の救いでもあり、また辛くもあり。超オススメ! pic.twitter.com/sghPieJpdT— てっくぱぱ (芝居好き) (@from_techpapa) March 4, 2020
映像化の情報
情報はありません。
満足度
(5/5点満点)
CoRich「観てきた」に投稿している個人的な満足度。公演登録がない場合も、同じ尺度で満足度を表現しています。
感想(ネタバレあり)
ストーリーは。
中学時代にいじめにあった、池田亮(作者と同名)。大人になった池田亮が、中学時代のいじめを丁寧に振り返る。壮絶ないじめの記録を淡々と。そして、高校時代。いじめはなくなっていたが、陸上部で周りから「兄弟」と言われるように親しくなった友達「弟」。・・・彼も中学時代に壮絶ないじめを経験している「弟」との友情と。大学になって、「弟」に会わなくなるも、その自殺による訃報を聞き。そして、いじめた本人にひょんな事から再開して、飲みに行った先で感情をぶちまける・・・そんないじめの軌跡を、大人になった池田亮本人が、どこか冷めた目で語り部として物語を語りながら、その感情や背後の事々を、丁寧に説明していく物語。
冒頭、登場するのは池田亮、本人だと名乗る人。中学でのいじめ。「死ね」という下手くそな絵と共に始まる物語。どこか淡々としていて、醒めた、第三者的な視点で語られる「いじめ」。ここで語られるのは、実際に池田亮が受けたいじめだ、という説明がある。「死ね」の文字と絵は、実際に掲示板に貼られたという。観ている側は当然確認のしようがない事だけれども、間違いなく事実に近い事柄なのではないか、という印象を受ける。
自らの受けた「いじめ」を語る訳だから、とてつもなく身を切るような痛さを伴う表現。なのに、淡々と、どこか醒めた視点で、観ている側も辛うじて、観ていられる感じ。もし過去にいじめの当事者になった事がある人が客席にいたら、この芝居を冷静に観ていられるだろうか、というのが心配にもなる。途中、いじめを受けた経験のある「弟」と「彼女」が過呼吸になるシーンがあったけれど、ああいう風になる人が客席にも出てくるんじゃないか、という不安すら抱いてしまう。そうならないような、ちょっとした笑いと、淡々さは、意図的な表現なんだろうけれど適度に織り込まれている。
作者の池田亮自身が出演して、こういった体験を語る。私は終演後まで、舞台にいる池田亮は、池田亮・本人だと信じていた。終演後、ツイートなどをみていると、どうやら違うらしい。確かに、当日パンフレットの出演者欄には、池田亮の名前はない。池田亮を演じていたのは、中村亮太という俳優さんだという事を、終演後しばらくして知る。
…この情報を知った時、どうしてそう感じるのかを上手く説明できているか、ちょっと自信がないが、…少し安心した、ホッとした感覚があった。本人が、本人としてこの物語を語るには、あまりにも辛い。鋭い刃物のような物語だ。観ている方も、辛い。胸が痛い。前情報を入れずに観るのが私のスタイルとは言え、本人だと思っていた。一本取られた、感覚。鋭い刃物は、演劇が創り上げた虚構と現実との間を鋭く切り裂く。
テーマが、いじめ。いろいろな事を考えてしまう物語だが。高校に入ってからの文化祭のクラスの出し物?で、「悲愴感」(という、ちょっとイケメンじゃないお笑い芸人が組んだユニット)の物真似をすることになってしまった「兄」と「弟」の反応が、切ない。物語上、どうしてモノマネをする事になったのかの背後までは詳しくは語られないが(からかい半分で、みんなに推薦された?)、「兄」の池田亮は「悲愴感」のモノマネを、まあまあ楽しんでやってしまう。「弟」は、踊りながら過呼吸になってしまう。「弟」には、自虐的な「悲愴感」というグループのモノマネで、いろんな人から笑われたのが、その笑われる、という事が耐えられなかったらしい。そして、大学に入学と同時に引きこもってしまった「弟」は、自ら死を選んでしまう。自分を客観視して、自虐的に笑う。そんな事が「弟」にはきっと難しかったのだろうか。モノマネでもなんでも「表現をする」という事が、救いになった場合と、救いにならなかった場合…「兄」と「弟」違い…があるのかもしれない…そんな事を思う。
その流れで。作者の池田亮は「兄」だと思っていたのだけれど、当日パンフレットを読むと「兄」なのか「弟」なのか、分からなくなってきてしまう。この記載だと「弟」が、池田亮の物語とも取れてしまう。…そう考えると、この物語全体が、限りなく真実をベースにした「虚構」、という気もしてくる(だからといって、重みが消えるわけではないけれども)。前回の「姿」が、実の父母が出演していたこともあり、真実の物語、という気もする。段々、分からなくなる。
…きっと、いろいろな情報をかき集めれば、この物語が「実話か」「虚構か」と言ったことは、見えてくるのだろう。けれども表現したかったことは、そういう事ではないのかもしれない。「当事者」という感覚が、観る客側に明確に意識されて浮き上がらなければ、この表現、「いじめ」られる側の想いの表現は片手落ちになる。その「当事者意識の立体化」こそが、この物語の正体なのかもしれない。今今、思い返してみれば、物語としての「いじめ」は、深刻ではあるものの、ストーリー展開として予想外なもの、はなかった。にもかかわらず、そこにはただ、「当事者」の視点での強烈なリアリティが、淡々と丁寧に描かれていた。よくよく考えてみると、これは凄いことだと気が付く。作者の役を演じる、役者が登場するのもその一環だろう。「いじめ」を、あり得ないくらいリアルな「当事者」の視点として客にみせる。その視点の浮き上がらせ方が凄い、と、こうして感想を書きながら、そんな事をにあらためて気が付いた。
気になった役者さん。中村亮太、きっと事前知識を入れれば、分かる事なのだろうけれども。私は完全に、騙されました。池田亮の、あるいは「いじめられる」側の当事者としてしか見れませんでした。小松大二郎、最後の居酒屋でも、結局全然コミュニケーションが成立していない、あの軽い感覚が怖かったけれど。いじめ問題を話として聞くときに、そういう「罪の意識がない」人が多いのをリアルに表現していて。「弟」役を演じた役者さんの名前が、正確に特定できない…。「悲愴感」で震えるシーンと、震えるラストのゼグウェイのシーンも印象的。
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