<映画レポート>「星の子」
【ネタバレ分離】昨日観た映画、「星の子」の鑑賞レポートです。
もくじ
映画基本情報
キャスト
ちひろ:芦田愛菜/南先生:岡田将生/雄三おじさん:大友康平/海路さん:高良健吾/昇子さん:黒木華/まーちゃん:蒔田彩珠/粟野咲莉/なべちゃん:新音/池谷のぶえ/池内万作/宇野祥平/見上愛/赤澤巴菜乃/田村飛呂人/大谷麻衣/ちひろの父:永瀬正敏/ちひろの母:原田知世
スタッフ
監督: 大森立嗣 /原作:今村夏子/脚本:大森立嗣/プロデューサー:吉村知己,金井隆治,近藤貴彦/共同プロデューサー:高口聖世巨,飯田雅裕/アシスタントプロデューサー:横山一博/撮影:槇憲治/照明:水野研一/美術:堀明元紀/録音:島津未来介/装飾:田口貴久/衣装:纐纈春樹/へアメイク:寺沢ルミ/編集:早野亮/音楽:世武裕子/タイトルアート:清川あさみ/アニメーション演出:香月邦夫/アニメーション作画:香月邦夫/アニメーション美術監督:東地和生/似顔絵作画:紅月陽/VFXスーパーバイザー:田中貴志/スチール:三木匡宏/キャスティング:神林理央子/助監督:小南敏也/制作担当:斉藤大和/ラインプロデューサー:飯塚香織
2020年製作/110分/G/日本/配給:東京テアトル、ヨアケ
公式サイト
星の子
(公開後、一定期間でリンク切れの可能性あり)
映画.comリンク
作品解説
子役から成長した芦田愛菜が2014年公開の「円卓 こっこ、ひと夏のイマジン」以来の実写映画主演を果たし、第157回芥川賞候補にもなった今村夏子の同名小説を映画化。監督は、「さよなら渓谷」「日日是好日」の大森立嗣。
あらすじ
大好きなお父さんとお母さんから愛情たっぷりに育てられたちひろだが、その両親は、病弱だった幼少期のちひろを治したという、あやしい宗教に深い信仰を抱いていた。中学3年になったちひろは、一目ぼれした新任の先生に、夜の公園で奇妙な儀式をする両親を見られてしまう。そして、そんな彼女の心を大きく揺さぶる事件が起き、ちひろは家族とともに過ごす自分の世界を疑いはじめる。
満足度
(3/5.0点満点)
鑑賞直後のtweet
映画「星の子」
キャッチコピー納得いかないなぁ。予想に反し写実的な映画。回収されていない部分もあって不満が残り。ラストはあからさま過ぎやしないか。サラっとやらないと。小説との違い気になるけど追う気までは起きず。黒木華、え?と思うくらい別人で、女優だ。芦田愛菜も好演。#土曜AMシネマ pic.twitter.com/p9vB7qmrXL— てっくぱぱ (芝居が好き・映画も好き) (@from_techpapa) October 10, 2020
感想(ネタバレあり)
キャッチコピー「ちひろだけが、大好きな両親を信じた。」は、全く違うように思った。むしろこの映画は、少し中途半端な「青春映画」だ。
全編を通して、登場人物の動機・・・特に主人公「ちひろ」の動機、「なぜ」という感情の部分が、あまり表現されていない。おそらく動機を表現することを意図的に避けている。なぜ姉は家を出たのか。なぜちひろはあんなに辛い事件があっても両親の元に残っているのか。なぜちひろは新興宗教に対する疑問を解消する行動を取らないのか。ちひろが感情を荒げる場面は、殆ど出てこない。憧れの南先生とのやりとりの場面くらいだったように思う。
その感情表現を真正面から解釈すると、登場人物がまだ幼いから、と受け取れる。ちひろはまだ中学3年生。親の保護を受けて、親の元で育つ…というのが一般的な日本の家庭の姿だろう。ごくごくふつうの生活の中に溶け込んでいる「怪しい宗教」なのだから、15歳で、父母の宗教に対する価値観に対して、何かを判断する事、判断して自分の人生を変えていく事は、まだ難しかったのだろう。劇中、ちひろの台詞でも「どうしたいのか分からない」というセリフがある。その「よく分からなさ」は、父母の宗教からもたらされる世界が、自分のいるべき世界なのかどうなのか、比較対象がないので、比べようがないという幼さなのだと思う。
そんな動機のないちひろが、恋に落ちる。「怪しい宗教」の教祖?にとてもよく似ている人、数学の南先生への恋は、ちひろ日常としてきた価値観を大きく揺さぶってくる。しかし幼なさ故、その日常の外の風景をまだ直接、見る事が出来ない。様々に起こる事件や、姉との時間の回想は、世界の揺さぶりの過程を描いている。作品のキャッチコピー「ちひろだけが、大好きな両親を信じた。」というの、は全く反対だ。ちひろは大好きな両親を疑い始めている。それでも、新しく見始めた世界と矛盾しない形で、目の前の世界を見ようと努力し始めた、そのスタート地点の物語に思えてならない。
だからこそ、ラストシーンでちひろと両親は、同時に流れ星を見る事が出来ない。ちひろと同じ常識。ちひろと同じ世界の見方。姉かどこかで見上げている夜空の星。それらを、両親とは決して共有することが出来ない。…あまりにも長い、ベタな隠喩のシーンで苦笑してしまったが(もう少しサラッとやれば十分なのに)、それ故に意図は嫌というほど伝わった。このシーンからだけでも、キャッチコピーには違和感しか感じない。宣伝上のものだったのかもしれないけれど、あまりにもミスリードが過ぎるコピーだった。
思春期の幼い頃。親の価値観の外に出ようとするのは、当然誰でも経験している事だと思う。親を超えていく事で人は成長し、大人になっていく。ただ、よくある思春期の映画と違い、この作品は感情の描写があまりない。青春映画の場合、物語を描く映画として、爆発的なエネルギーを伴っている事が多い。しかしこの映画はとても静かで写実的。動機を表現しない。そのパワーの無さが、映画の歯切れの悪さにもつながってしまうように思う。青春映画がもうすぐ始まる…、そんな予告編に留まってしまった感覚だった。
原作は芥川賞受賞作、との事だけれど。忠実に描かれているのだろうか。原作との差異が気になるけれど、この映画だけでは、原作までを確認しようというモチベーションは産まれてこなかった。
役者さん。映画は芦田愛菜の名を冠しているが、前述の通りあまり感情を出す場面が多くなく、すこしのっぺりした印象。ただ、飽きる事は無かった。役者さんとしての人の目を引き付ける魅力はとても強いなぁ、と感じる。永瀬正敏…いや、最近見ていなかった役者さんなのだけれど、最初は永瀬正敏だと気が付かなかった…。いやこの人、濱マイク、だよね…。最近はこんな路線の役が多いのだろうか。宗教にハマって少し踏み外しかけているのに、とても真面目で誠実、という怖さが凄かった。黒木華、「幕が上がる」の演劇で知った役者さんだけれど…、いやはや、全然違う。何度も目をパチクリして見返してしまった…。こちらは女優さんとしての「化け」の凄さを見た感じ。3~4シーンくらいしか出ていないのに、宗教にのめり込んでいるタイプの女性像…っていうのが、風貌からして表れているのが、とても怖かった。
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