<観劇レポート>劇団俳優座 「正義の人びと」
【ネタバレ分離】昨日観た芝居、 劇団俳優座「正義の人びと」の観劇レポートです。
もくじ
公演前情報
公演・観劇データ
項目 | データ |
---|---|
団体名 | 劇団俳優座 |
回 | 劇団俳優座No.344 |
題 | 正義の人びと |
脚本 | アルベール・カミュ |
演出 | 小笠原響 |
日時場所 | 2021/01/22(金)~2021/01/31(日) 俳優座劇場(東京都) |
団体の紹介
劇団ホームページには紹介がありますが、長いので割愛します。
多くの俳優さんが所属し、テレビ等の出演も多い劇団です。
事前に分かるストーリーは?
こんな記載を見つけました
「僕が爆弾を投げたのは圧政に対してで
あって、人間にではない。」
1905年、ロシアの圧政を憂い、革命を志す若者たちは、権力の象徴である皇帝の叔父・セルゲイ大公の暗殺を企てる。詩人カリャーエフは、すべての人の上に平和が訪れることを信じ、大公の馬車に爆弾を投じる大役を買って出た。果たして正義は罪を超えられるのか?実際に起った「セルゲイ大公暗殺事件」をモデルに、不条理に抗う青年たちの苦悩と葛藤を描く。
観劇のきっかけ
俳優座の公演は水が合うようで、最近追いかけて観ています。
ネタバレしない程度の情報
観劇日時・上演時間・価格
項目 | データ |
---|---|
観劇日時 | 2021年1月22日 19時00分〜 |
上演時間 | 150分(15分休憩含む) |
価格 | 4400円 全席指定 Go Toイベント割引付 |
チケット購入方法
劇団ホームページからのリンクで、ローソンチケットで予約、カード決済しました。
ローソンで受け取りました。
客層・客席の様子
男女比は7:3くらい。40代upのシニア層が目立ちました。
観劇初心者の方へ
観劇初心者でも、安心して観る事が出来る芝居です。
・シリアス
・会話劇
・考えさせる
観た直後のtweet
俳優座「正義の人びと」150分休15分含
重い。正に、正義の人びと。いろんな事が頭の中を駆け巡る。正義と友愛とをぶつけた時、人はどうしようもない。言ってる事と感じてる事が全く正反対になる。泣いてるのに、泣かないで、と乞うてる。いつかそれを利用する奴がい現れる。重い。すごい。超オススメ! pic.twitter.com/T0BpEvqstx— てっくぱぱ (@from_techpapa) January 22, 2021
映像化の情報
情報はありません。
満足度
(5/5点満点)
CoRich「観てきた」に投稿している個人的な満足度。公演登録がない場合も、同じ尺度で満足度を表現しています。
感想(ネタバレあり)
ロシアで圧制を敷く政府・圧政者を倒すための「組織」。大公をテロで爆殺する計画。実行時に、その馬車に子供、大公の甥と姪が乗っていて、爆破をためらった所から揺らいでくる自信。そんな中で生きる革命組織の若者たちの物語。「正義」のために戦う事、誰かを殺めることが、他方から見た時に、本当に正義なのか。「正義」とは、どうしても片面的なモノの見方になってしまう。それでも「正義」を求める人の営みがある事。その、二律背反の苦しさを描いた作品。
「異邦人」くらいしか知らないカミュ。不勉強にも、戯曲を書いていたとは露知らずだったが、作品は、とても普遍的な切り取り方、普遍的な内容だった。2021年のこの時代にあって観ると、世相にあわせて、いろいろと考えてしまう部分も多々ありはしたものの、作品自体はとても普遍的。
登場人物たちに、共感と反感と、二つの感情が湧いてくる。
例えば、ヤネクとステパンの対立。爆殺をためらってチャンスを逃したヤネク。その躊躇に対して、このまま大公の圧政が続けば何万人という子供たちが餓死で死んでいく、と叫ぶステパン。それでも自らの「正義」を曲げないヤネク。暴君を殺すのであって、大公個人を人を殺すのではない、とも。
獄に下されて、夫を殺された大公妃がヤネクに神に祈る事、恩赦を乞いに来ても、その申し出を断るヤネク。子供を殺せなかった事で見えてきた「正義」を遂行する事の難しさ。遂行した後、貫くことの辛さ。ヤネクとステパンの対立で、それぞれがそれぞれ、正しい事を言っていて。どちらかに偏って共感する訳ではなく、客席で観ていると、そもそも「正義」というものの二面性を、ヤネクとステパンと、その周りの人々から沸き立ってくる。
あるいは、ドーラ。恩赦を受け入れて、獄から出て来れば、またヤネクと再会できる。でもそれは、彼が彼自身の信念を曲げる事であり、組織としては裏切りに等しい行為。それでも、別れ際に彼を愛していると知ってしまったドーラは、彼を一目見たい、よく晴れた日の空の下、ごくありふれた日常の中でで抱きしめたいと願う。1人の人格の中で「正義」と「愛」が二律背反して、苦しめている様。恩赦を受け入れずに絞首刑にされた報。同志に向かって泣きながら「泣かないで」と叫ぶドーラ。…泣かないでって、お前が泣いとるやんけ…と、観客の私の視点としては、ごく冷静に心の中でツッコミを入れてしまう。「正義」という概念が、心の中に牢獄を作ってしまっている感覚。そんなどうしようもなさ、を、舞台に渦巻く感情とは裏腹に、冷静に見てしまう観客の自分がいた。
芝居を観ていると、不思議と感情移入とは別の場所、少し遠巻きの視点で、人の愚かさを眺めている感覚がある。劇中「神」の概念が、重要なキーワードになっているけれど、ひょっとしたら観客は、つかのま「神のようなもの」の視点に立つことを許された、そんな観劇の時間だったのかもしれない。
卑近な例だけれど、途中でステパンが言い放つ「ロシア中の子供たちが餓死で徐々に苦しんで死ぬ様に比べれば、爆殺で一瞬で死ぬなど極楽だ」的な言葉。印象的で、かつ、どこかで聞いた事あるな、と思ったら。映画「シュリ」でも、チェ・ミンシクが演じた北朝鮮の工作集団の親玉が、同じような言葉を発していたな、というのを思い出した。
ここまで書いたところで、パンフなんか読んでみる。いわゆる、反体制、レジスタンスを扱った作品では、よくある構図なのかもしれないが、実話を基にしている作品、という事で驚き。演劇として、対立して芽生える細かい感情を、緻密に扱っていて、重い作品ではあるものの、しばらく尾を引きそうな感覚。
特に気になった役者さん。ドーラ役の荒木真有美、自分の中で対立してしまっていて、最後は少し発狂気味にさえなってくる、あの感覚は、観ていて胸が痛かった。ステパン役の田中茂弘、ぶっきらぼうな性格の中に、歪んでしまった過去の何かが見通せて、こちらも観ていて胸が痛い。そんな二人のシーンが特に印象的だった。