<観劇レポート>ワンツーワークス「ジレンマジレンマ」
【ネタバレ分離】昨日観た芝居、 ワンツーワークス「ジレンマジレンマ」の観劇レポートです。
もくじ
公演前情報
公演・観劇データ
項目 | データ |
---|---|
団体名 | ワンツーワークス |
回 | ワンツーワークス #32 |
題 | ジレンマジレンマ |
キャスト | ルーム:白 |
脚本 | 古城十忍 |
演出 | 古城十忍 |
日時場所 | 2021/03/04(木)~2021/03/14(日) 赤坂RED/THEATER(東京都) |
団体の紹介
劇団ホームページにはこんな紹介があります。
『ワンツーワークス』は、古城十忍(こじょう・としのぶ)が主宰する劇団です。
事前に分かるストーリーは?
こんな記載を見つけました
「正義」はどっちだ?
「問い詰める者」と「追及される者」、
緊迫のディスカッション・ドラマ。三つの部屋で、 異なる三つの取り調べ が行われている。
被疑者はそれぞれ、 「生真面目な国家公務員」
「強気の精米店の女主人」 「生意気な男子大学生」。
問い詰める側は 「許されない」という 「正義」を振りかざし、
厳しい追及の手を 少しもゆるめない。
だが、疑われる側にもまた 「なぜ悪い」という言い分があり、
どうしても譲れない「正義」がある。
問い詰める者の正義と、 追及される者の正義。
互いの正義が激しく ぶつかり合うなか、
緊迫の取り調べは 次第に意外な真実を あぶり出していく。
さらには、無関係だった 三つの取り調べに共通する
「思わぬ事件の背景」までが 明らかになる……。
過去の観劇
- 2024年11月14日 【観劇メモ】ワンツーワークス「線引き~死者に囲まれる夜~」
- 2024年07月19日 【観劇メモ】ワンツーワークス「神[GOTT]」
- 2023年11月05日 ワンツーワークス「アメリカの怒れる父」
- 2023年06月18日 ワンツーワークス 「R.P.G. ロール・プレーイング・ゲーム」(2023年)
- 2023年02月20日 ワンツーワークス「アプロプリエイト―ラファイエット家の父の残像―」 ・・・つづき
ネタバレしない程度の情報
観劇日時・上演時間・価格
項目 | データ |
---|---|
観劇日時 | 2021年3月9日 19時00分〜 |
上演時間 | 105分(途中休憩なし) |
価格 | 5000円 全席指定$$ |
チケット購入方法
当日券を求めて、公式ツイッターに当日の朝11:00に出た予約URLから予約しました。
劇場で、現金でお金を支払い、指定席券に交換してもらいました。
客層・客席の様子
男女は5:5くらい。様々な年齢層の人がいました。
観劇初心者の方へ
観劇初心者でも、安心して観る事が出来る芝居です。
・シリアス
・会話劇
・考えさせる
観た直後のtweet
ワンツーワークス「ジレンマジレンマ」105分休無
会話劇。素晴らし過ぎた。あの出来事、むしろ肉親をなくすより、生きて自らの正義に嘘をつかねばならない方が、大きな辛さ、悲劇だったのかもしれない。ここ数日安直な番組も多く流れそうだが、そんな事を思うと遠い目しかできず。10年。超オススメ! pic.twitter.com/k4a8UiBSap— てっくぱぱ (@from_techpapa) March 9, 2021
満足度
(5/5点満点)
CoRich「観てきた」に投稿している個人的な満足度。公演登録がない場合も、同じ尺度で満足度を表現しています。
感想(ネタバレあり)
東日本大震災(とは作品中に明言されていないが)をきっかけに、自らの行動を「尋問」される立場に立った3つの独立したケースをスイッチしながら、自らに課した「正義」と、震災によってそれを守る事がどれほどの苦悩を生んだのか。その事を描いた会話劇。
不謹慎な言い方を許してもらうなら、ここで描かれている苦悩は、ひょっとしたら大震災で親しい人を無くした人が味わう苦悩よりも、むしろ重いのではないか。なにより重いのは、この苦悩には、全く焦点が当たっていなこと。その事を思うと、途方もない寂しさというか、やるせなさを感じずにはいられない。そういった感情のエッセンスを、演劇が絶妙な角度で切り取った。そう思えた。
展開される3つのケース。
1つめは、原発の検査を任されている保安検査技師。原発の側にいたのに、対策拠点(オフサイト・センター)から県庁に逃げ帰った人が、経済産業省の内部調査人に逃げ出した経緯を聞かれる人。2つめは、避難区域に指定された地域に、震災直後に空き巣に入った大学生の友人2人組の強盗を取り調べする警察官。3つめは、地元(地域は明言されていない)の米が売れなくなり、新潟の米と偽って地元米をブレンドして売っている米の卸業者に詰め寄る、農協の職員。
1つめ、原発の保安検査員。自らの良心に問いかけるなら「怖かったから逃げた」という事を、自分自身のためにも、後世のためにも、ありのままに残すべきだと思うのだが、内部の調査員だからこそ組織保全のためにも言えない、記録に残せない。若い検査院は「自分たちは精一杯行動した」と、自分自身に嘘をついて、しかも嘘をついている事さえ表面的には認識していないまでに、自分の行動を正当化している。今ここで、自分のが「恐怖で逃げ出した」という事に嘘をついたら、一生その重荷を背負って生きていかねばならない。その事が分かるからこそ、若手の行動を止めたい。でも、何もできない無力さ。・・・この若手の残りの人生と、それを想像できてしまう検査技師の苦悩を想像するだけで、クラクラしてしまう。
2つめ、空き巣の取り調べをする警察官。友達の両親は、震災とは関係ない土砂災害で死んだ。その時、義援金は1円も来なかった。でも、震災だ、と言えばたくさんの人が手を差し伸べる。自分の最も身近なものが困っている時に、なんとかお金を作るために助けるという正義と。震災でただでさえ震災被害にあっているのに、空き巣被害を許したくない、地元の刑事。正義の範囲。どの範囲の正義を優先すべきなのか。たとえ震災だとしても、その正義が対立した時、何をたよりにすればいいのか。ふと、マイケル・サンデルの「ハーバード白熱教室」を思い出したりしつつ、救いの無いやり取りに、クラクラしてしまう。
3つめ、結局この女性は、米をブレンドしている偽装を知っていた。それでもなお、そうせざるを得なかった事情と、それを問い詰めないといけない事情。・・・もぅ見ていて、なんて救いの無い会話をずっとしているのだろうか、とちょっと辛過ぎるな、とも思う。最初は、単に「地元米を販売しない」だけの話、村の掟の話なのかな、と思ったものの。徐々に明るみに出てくる過程が、少しサスペンス的で面白い。
この芝居を観た翌朝テレビを見ていたら、3.11の特集をやっていた。でも、ここで挙げられているような苦悩は、きっと取り上げられることはないんだろう。・・・まあ、テレビでやっている事が全てではないものの、世間の注目という観点で、隠れてしまいそうな苦悩の感情を、普遍的な形で取り上げているのがとても印象的だった。
終演後、アフターイベントで「公開ダメだし」あり。古城十忍氏が、出演者にダメだし。毎回、この手のイベントがあるが、今回初めて参加。
その日の、出トチり、セリフ噛みを指摘するのは楽しいのだけれど、物語の解釈に対して話しているのがとても印象的だった。この芝居、相手に対して怒って叫んでいても、実際にはその背後の事柄、理不尽だったり世間に対して怒っている。そういった事を理解する指摘をしていたのが印象的だった。