<観劇レポート>KAAT神奈川芸術劇場「アルトゥロ・ウイの興隆」
【ネタバレ分離】昨日観た芝居、 KAAT神奈川芸術劇場「アルトゥロ・ウイの興隆」の観劇レポートです。
もくじ
公演前情報
公演・観劇データ
項目 | データ |
---|---|
団体名 | KAAT神奈川芸術劇場 |
題 | アルトゥロ・ウイの興隆 |
脚本 | ベルトルト・ブレヒト |
演出 | 白井晃 |
日時場所 | 2021/11/14(日)~2021/12/03(金) 神奈川芸術劇場・ホール(神奈川県) |
団体の紹介
神奈川芸術劇場。横浜の山下公園近くにある劇場です。
ミッション
「3つのつくる」をテーマとする創造型劇場
【モノをつくる 芸術の創造】
演劇、ミュージカル、ダンス等の舞台芸術作品を創造し、発信します。県民の財産となるようなオリジナル作品を創造し、次代に引き継ぎます。
【人をつくる 人材の育成】
舞台技術者、アートマネージメント人材など文化芸術人材を育成します。より良い作品創りのために、劇場スタッフが施設利用者をサポートします。
【まちをつくる 賑わいの創出】
公演事業の積極展開、創造人材の交流及びNHK横浜放送会館を始めとした近隣施設との連携により、賑わいや新たな魅力を創出し、地域の価値を高めます。
事前に分かるストーリーは?
こんな記載を見つけました
シカゴギャング団のボス、アルトゥロ・ウイは、政治家ドッグズバローと野菜トラストとの不正取引に関する情報をつかんだ。それにつけこみ強請るウイ。それをきっかけに勢力を拡大し、次第に人々が恐れる存在へとのし上がります。
見る見るうちに勢いを増していくウイを、はたして抑えることができるのだろうか・・・?「こんなやつがかつてほとんど世界を支配しそうになったのです!/諸国民がやつを屈服させ、やつの主となりました。それでも/ここで勝利を喜ぶのはまだ早すぎます。/やつが這い出てきた母胎は、まだ生む力を失っていないのですから」 ~エピローグより~
1933年ブレヒトはナチスに追われ、15年に及ぶ亡命の旅に出ます。アメリカへ渡ったブレヒトは英雄として神格化されるギャングたちの映画に興味を持ち、ギャング団の資料を集めたと言われています。その中で、禁酒法時代にシカゴの高級ホテルを住まいとし、密造酒製造販売、売春業、賭博業を組織化し、勢力を拡大していったアル・カポネにヒトラーとの共通点を見つけ、41年に戯曲の執筆に着手します。衝撃をあたえた本作の初演は1958年にドイツ・ヴュルテンブルグ州立劇場にて上演。1956年にブレヒトがこの世を去った後でした。
日本では、1969年に田中邦衛主演、劇団俳優座による『ギャング・アルトゥロ・ウイ~おさえればとまるアルトゥロ・ウイの栄達』のほか、2005年に新国立劇場が招聘したマルティン・ヴトケ主演、ベルリナー・アンサンブルによる公演があり、大きな話題を呼びました。
この作品は、ヒトラー率いるナチスがあらゆる手段を使い独裁者として上り詰めていく過程を、シカゴのギャングの世界に置き換えて描いたという大胆な作品。作品の中にはヒトラー「興隆」の過程が劇中にちりばめられていて、彼の君臨を許した当時の社会環境が冷ややかな姿勢で描かれています。第一次世界大戦後、敗戦国となり莫大な賠償金を課され、未曾有のインフレに苦しめられたドイツ。そんな荒廃した生活の中で、ヒトラーとナチスは民衆の不満に応え、民衆からの絶大な支持を勝ち取ることによって権力を握っていきました。
ナチス支配の終焉からおよそ70年経った現代、日本のみならず世界中で露になっている格差の問題は、まだ終息をみないコロナ禍においてますます拡大し、社会には不安が蔓延しています。この世の中の不満を救い取り、新たな独裁者が現れたとしたら・・・。今も昔も、独裁者を誕生させるのはそのような「空気」を生み出す民衆の心なのではないかというブレヒトの警鐘が現代にも響いてくるようです。
ネタバレしない程度の情報
観劇日時・上演時間・価格
項目 | データ |
---|---|
観劇日時 | 2021年11月15日 17時00分〜 |
上演時間 | 185分(80分-20分-80分) |
価格 | 9000円 A席 全席指定 |
チケット購入方法
チケットかながわで購入・決済しました。
セブンイレブンで予約番号を伝えて受け取りました。
客層・客席の様子
男女比は、5:95。女性が殆どでした。
観劇初心者の方へ
観劇初心者でも、安心して観る事が出来る芝居です。
・シリアス
・音楽劇
・にぎやか
・考えさせる
観た直後のtweet
KAAT神奈川芸術劇場「アルトゥロ・ウイの興隆」185分含休20
カテコトリプル。爆音のJBに乗せて。シカゴのギャングの攻防を、稀代の独裁者の生き様と重ねて描く。一幕、ちょっと単調でダメだっけど。二幕でグッときた。というより麻痺った。JB怖いなぁとか思ったり。草なぎくんは、ハマり役。オススメ。 pic.twitter.com/71iqG8hEJS— てっくぱぱ (@from_techpapa) November 15, 2021
満足度
(4/5点満点)
CoRich「観てきた」に投稿している個人的な満足度。公演登録がない場合も、同じ尺度で満足度を表現しています。
感想(ネタバレあり)
シカゴのマフィア、アルトゥロ・ウイが、野菜の取引でその勢力を増していき、裏で人を殺し恐怖で押さえつけていく様。これをヒトラーがドイツ・オーストリアをどのように独裁体制下に置いたかをなぞりながら描いた物語。しかもその様子を、ジェームス・ブラウン(JB)のビートの効いた曲の爆音生演奏に合わせて、歌いながら物語を描く音楽劇。
チラシと、草彅剛主演、白井晃演出、というのだけで観劇を決めたけれど。帰宅して作者を見てみたら、驚く事にブレヒト。ドイツを追われて亡命したアメリカで書いた作品だった。ウィは、ヒトラーの行いと同じであることが、舞台の途中途中で、字幕スクリーンで示される。描かれているのは全て、マフィアの物語だが、その内容が、ドイツの歴史そのものを対応させた寓話である事が分かる。ラストは、ナチスのハーケンクロイツがスクリーンに映し出される。また、野菜の取引を牛耳る、という話だが、これは麻薬や酒の取引の置き換えになっている。
一幕。海外劇の名前と人物関係の分かり難さか、あるいは会話を音楽に乗せてするが故の分かり難さか、ちょっと物語が頭に入ってこなくて困ったのだけれども。二幕。ウイの勢力拡大がどんどんと大きくなっていく様子。テンポに導かれて、惹かれて、気がついたら没入していた。特に第一幕で感じた単調さから、物語部分をもう少し丁寧に描いてもいいんじゃないかなぁ、という気はするけれど。後半になると、テンポの方が支配的で、そのあたりが徐々に気にならなくなってきた。
JBの曲、こういう使い方されると怖いなぁ、というのが正直な感覚。知っている曲もまぶされている中、ギャング抗争の殺伐とした時代だったり、ヒトラーの台頭した時代だったりの「誰も止められない時代の"麻痺"のリズム」みたいなものをよく表していたように感じる。当然、JBの曲の内容と物語は、全く関連しないのだけれど(という事は、冒頭、字幕で示されるけれど)、少し怖いものだなっていう感覚をJBの曲に対する感想として持った。
草彅剛、昨年見た「ミッドナイトスワン」の演技が好きで、今回、舞台を観に行こうと思った(あと、白井晃演出だし)。過去見た演技だと「いいひと」のドラマ版なんかも印象に残っているが、これまでみたどの演技とも違う。でもハマリ役。JBの曲に合わせて、ステップを踏むのがカッコよかった。役者さんとしての草彅剛、好きだなぁ、というのを改めて感じた。