<観劇レポート>劇団印象-indian elephant-「カレル・チャペック〜水の足音〜」
【ネタバレ分離】昨日観た芝居、 劇団印象-indian elephant-「カレル・チャペック〜水の足音〜」の観劇レポートです。
もくじ
公演前情報
公演・観劇データ
項目 | データ |
---|---|
団体名 | 劇団印象-indian elephant- |
回 | 劇団印象-indian elephant-第29回公演 |
題 | カレル・チャペック〜水の足音〜 |
脚本 | 鈴木アツト |
演出 | 鈴木アツト |
日時場所 | 2022/10/07(金)~2022/10/10(月) 東京芸術劇場シアターウエスト(東京都) |
団体の紹介
劇団ホームページにはこんな紹介があります。
「印象」と書いて「いんぞう」と読む。劇作家・演出家の鈴木アツトを中心に2003年に設立。「遊びは国境を越える」という信念の元、“遊び”から生まれるイマジネーションによって、言葉や文化の壁を越えて楽しめる作品を創作している。主な作品は、『ジョージ・オーウェル~沈黙の声~』、『藤田嗣治~白い暗闇~』、『エーリヒ・ケストナー~消された名前~』、『グローバル・ベイビー・ファクトリー』、『青鬼』(若手演出家コンクール2012優秀賞・観客賞受賞)など。海外での上演・共同創作も多数。
過去の観劇
- 2023年07月31日 劇団印象-indian elephant-「犬と独裁者」
- 2022年06月10日 劇団印象-indian elephant-「ジョージ・オーウェル〜沈黙の声〜」
- 2021年10月28日 劇団印象-indian elephant-「藤田嗣治〜白い暗闇〜」
- 2020年12月10日 劇団印象「エーリヒ・ケストナー〜消された名前〜」
事前に分かるストーリーは?
こんな記載を見つけました
闘争か共生か。軍靴の足音が迫るプラハ、母語によって分断される国民。その荒波に抗った、“言葉”を愛した芸術家たちの群像劇。
[劇作家より]
『ロボット(R.U.R.)』『山椒魚戦争』で知られるチェコの劇作家・小説家カレル・チャペックと、チェコスロバキア共和国内に住む、ドイツ語話者たち(ズデーテン・ドイツ人)との関係を描きたいと思い、この物語を書いている。チェコスロバキア共和国は、第一次世界大戦中の1918年に、ハプスブルク(オーストリア)帝国の解体によって生まれた新しい国だった。しかし、新生の共和国は領域内に、様々な民族を抱え込んでいた。特に、ハプスブルク帝国時代に支配言語であったドイツ語の話者たちは、チェコ時代になって、二級市民扱いされたことによって不満を溜め、軋轢が生まれていった。その鬱屈は、二十年をかけて大きくなっていき、やがて、ドイツ語話者が多く住むズデーテン地方をナチスドイツに割譲するという、ミュンヘン協定に繋がっていく。
>同じ土地を故郷に持ちながら、母語が違うというだけで、分断されていく国民たち。文化は言語を通して生まれ、育まれる。だからこそ人間は母語に誇りを持つ。しかし、同じ言葉を喋らない人々に対して不寛容になり、時に恐怖心さえ持ってしまう。母語は、個人のアイデンティティーと分かち難く結びつき、“よそ者”を作り出す、人間の原罪の一つだ。チャペック兄弟の人生を借りながら、この母語と国家をめぐる物語を届けたいと思う。
ネタバレしない程度の情報
観劇日時・上演時間・価格
項目 | データ |
---|---|
観劇日時 | 2022年10月7日 14時00分〜 |
上演時間 | 140分(途中休憩なし) |
価格 | 4000円 全席指定 初回割 |
チケット購入方法
劇団のホームページから、CoRichで予約しました。
当日受付で、現金でお金を支払い、指定された席の券をもらいました。
客層・客席の様子
男女比は5:5くらい。40代upが多め。年齢層高め。
観劇初心者の方へ
観劇初心者でも、安心して観る事が出来る芝居です。
・シリアス
・会話劇
・考えさせる
観た直後のtweet
劇団印象「カレル・チャペック 水の足音」140分休無
よかった。作家チャペックの半生を会話を中心に。RURの話は少なめ。印象は観る度に自分の無知を思う。色んなことよぎるも。チェコとドイツの関係は今の戦争にも、どこか対応し。傍から見るより複雑な欧州の民族関係と、繰り返す歴史と。オススメ! pic.twitter.com/7B4KacECZv— てっくぱぱ@観劇垢 (@from_techpapa) October 7, 2022
満足度
(4/5点満点)
CoRich「観てきた」に投稿している個人的な満足度。公演登録がない場合も、同じ尺度で満足度を表現しています。
感想(ネタバレあり)
ケストナー、藤田嗣治、オーウェルときて、4本目の印象は、チャペック。そして、東京芸術劇場。時代時代のあるシーンを切り取りながら、主人公の生き様を切り取っていくスタイルで、歴史の再認識から、現在の世界についても思考を促される演劇なのは今回も同じ。チャペックなので、「RUR」(ロボット)の話が多く出てくるかと思ったけれど、あくまで一つの要素として登場するのみ。ロボットが国民劇場で初日を迎える日からお話がスタートし、第二次世界大戦、ヒトラーの台頭を追いかけながら、彼の死の日までを描く作品。
いつもは、名前は聞いた事があっても、あまり背景を知らない人物のお話を観ることになるのだけれど、今回はちょっと違った。先日たまたまテレビの番組で、チャペックの文学と半生について取り上げられていて、その上での観劇だった。たまたま見た番組での若干の予備知識はあったものの、2つの要素が劇中際立ってい、テレビでの解説だけでは分からない事が、演劇でつかめた。
1つは、チェコスロバキアという国の位置づけ。第一次世界大戦後に出来た国。あまり細かい事を知らなかったので、ドイツとの折り合いの付け方に驚く。チャペック自身も、ドイツ系が多いズデーデンの地域の出身。チェコ語が、どの程度ニュアンスに富んだ言語か・・・というのは、私には到底分かりようがないけれど、別の言語を話す人々との軋轢が、社会の軋轢にも繋がってしまう様を、チャペックの家の部屋の様子を描いているだけなのに垣間見れる。この軋轢の話を聞いてしまうと、思わず、今起こっているウクライナの戦争の事も思い浮かべてしまう。ロシア語とウクライナ語と、話す地域の差・・・とか、実はゼレンスキーは、出身地柄からロシア語の方が堪能だったりとか、戦争が起こってから知った知識を、思い浮かべる。欧州の民族模様、それに伴う覇権の争いの歴史は、なかなか理解できていない事なんだろうなぁ、なんて事を、チェコスロバキアという視点から見た、一つの風景として、実感を持ってみる事が出来た。
もうひとつは、兄、ヨゼフ・チャペックとの関係。ロボットという語を産み出したのが、兄のヨゼフだという事は、そのテレビ番組で知ったのだけれど、カレル・チャペックの作品を手助けしていたり、画家としての活動に焦点が当たって描かれていたのが面白い。テレビの中では、割と晩年、二人が写った写真が紹介されていた。劇中、兄弟は同じ家に住む設定になっていて、それが実際の事実に基づいているかは分からない。おそらくある程度の創作が入っているのではないか、と思うのだけれど。弟との関係に悩みながら、自らの批判的な絵画を推し進めていく姿が、写真でしか見てていなかったヨゼフ・チャペックという人の人となりの、解像度を上げて観る事が出来たような、そんな気がした。
今まで観た3作から推測すると、創作として作り上げられた「会話」をもとに、史実に思いを馳せるように仕向けてくるのが「印象」の作風だけれど、今回は少しは異なり、純粋な会話だけでなく、心象真理というか、悪夢のようなシーンが差し挟まれる。ドイツ人の教師と、山椒大夫・・・という名の異語を話す人々達に、夢の中の世界で襲われる。今回の悪夢のシーンが、演劇的な演出として成功していたか・・・と言われると、ちょっと首をかしげる部分は多かったものの、今まで見てきた「印象」の作品の描き方が少し変化してきたように見えて、面白い。会話だけの作品だと、どうしても単調になってしまう部分が否めない。内面の心象心理の風景みたいなものを舞台に取り込んでいくと、更に面白くなっていくのかな、というのを感じた。